2014年12月20日土曜日

12月19日 第8回公判 論告求刑

【鵜飼裁判長】「採用決定した甲88号から甲90号証について弁護人は証拠説明を。」

【郷原弁護人】「甲88号証はNの融資詐欺の第二次の刑事告発の不起訴処分の通知書。甲89号証はNの告発書の抄本。甲90号証は不起訴処分の理由を「嫌疑不十分」と回答した電話聴き取り書となっています。」

【鵜飼裁判長】「では、検察官の論告意見を。」

書記官が弁護側に検察の論告要旨のコピー配布。

【伊藤検事】
【現金授受】
論告要旨に沿っていきます。Nの現金授受の証言は、ガストのジャーナル(伝票)や関係者の証言とも符号しており、疑いの余地がありません。

【銀行口座の動き】
Nは、4月2日ガスト美濃加茂店で10万円を被告人に渡す前に、水源の口座から15万円を出金。同月25日山家住吉店で20万円を渡す前には、90万円を出金し、70万円を別の口座に振り込み、残り20万円を手元に持っていた。このように直近に現金の出し入れがある事実が現金授受を裏付けています。

【メールの内容】
以上の事実は、メールの文面とも符号します。4月2日ガストに行く前にNから藤井に「渡したい資料があるので、美濃加茂に持って行きます。」とメールを送っているが、この頃、Nは市当局と直接浄水プラントの説明に美濃加茂市役所を訪れていたのであり、資料はメールに添付することもできたのであり、新たに資料を渡す必要はなく、現金を受け渡す口実として、そのようなメールを送ったと考えられる。

さらに、Nは藤井との会食から戻った後、「議員のお力になれるよう頑張ります。」とメールを送信しているが、美濃加茂市に住民票のないNは美濃加茂市内の選挙での投票権がなく、市議に対する助力は資金援助と解するのが合理的であり、常識的で納得できる見解である。

以上のNに対し、被告人藤井は「こちらこそわざわざありがとう。市民のため、日本のため、頑張りたいと思います。」と返信しているが、Nはこのメールの趣旨はよく分からないと公判で証言したものの、現金受渡のために面会することの大義名分であると理解できる。

さらに、4月25日山家でNが帰り際にTに「そろそろおいとまします。いろいろ議員に教授しておいて下さい。そして・・・」とメールを送信しているが、「そして・・・」は資金援助の含みであると解するのが合理的である。翌日、藤井はNに対し「本当にいつもありがとう。」とお礼のメールを送っているが、「本当に」と「いつも」との表現から、以前も含め2回は受け渡しをした現金の感謝と解するのが合理的である。

【ほかの証人】
以上のN証言は関係者の証言とも符合します。

山家店長TNの証言では、途中、誰とは特定できないが座席に2人になった瞬間があり、Tが席を立ったはずであり、その時に現金20万円が受け渡されたと推測できます。

H・Y証言は、Nに現金を貸す経緯について、詳細で内容も極めて自然であり、弁護人の激しい反対尋問に対しても、見せ金や高利貸しなど自己に不利な事実も認めており、虚偽の供述をする動機がなく、分からないことは分からないと記憶の濃淡に従ってありのまま供述しており、信用できる。Nの長年の知人であり、捜査機関ではない第三者のH・Yへの贈賄の犯行告白は、信用できる。

H・T証言は、公判で現金の額は覚えていないと証言したのは、かえって迎合しておらず、信用できるものである。

【当時の被告人の状況】
被告人藤井がNに防災安全課のことで送ったメールの文面は、すでに市当局は水源のことを知っていたにもかかわらず、あえて被告人は水源との関係を知られたくないようにしていたと読めるのであり、背後に現金を介した「良い癒着」があったと推測できる。

また、被告人は会食で「市議はお金ない」と話していたことや、選挙後、親族から金を借りるなど、資金繰りに困っていたことから、飲食店で言い合いをすれば人目につくため、抵抗なく受け取れる金額である30万円を受け取ったと解するのが合理的である。

【早川検事】
【現金授受の具体的状況】
山家で渡す金額を20万円にしたのは、市長選に出るなら倍の金額にしようと考え、水源の浄水器事業の自転車操業を脱したいとの思いから、これまでのお礼とこのスピードを維持したいとのお願いの気持ちを込めて現金を渡したものであり、自らの心情を偽ることなく率直に表現したものであって、N供述は信用できる。

ガストで10万円を封筒に入れて渡した時に、左の人差し指で「Tさんには(内緒で)」と口にあててジェスチャーしたと公判でNが証言したのは、やった者でなければ語れない迫真性がある供述であり、信用できる。

山家で20万円を渡した時も、立て膝をついて横に回り、茶封筒を両手で持って渡したと、具体的な渡し方まで供述しており、信用できるものである。

Tが同席していたのも、Nの脇の甘さがあらわれているが、かえって想像や誇張でないことと推測できる。飲食店で席を外すことはよくあることであり、Tが席を外した隙に現金を授受したものである。

Nが現金授受の時の被告人の表情をよく覚えていないと証言したのは、大勢の客がいる飲食店の中の一瞬の一コマであり、明確に記憶に残っていないのもやむを得ないことであり、現金授受という根幹部分の信用性を損なうものではない。

【Nの供述経過】
Nの贈賄自白の動機について、2月の逮捕当初、Nは言えば不利になるかもと思い、話さなかったが、勾留中に自問自答を繰り返し、ゼロになって帰ろうと思い立って、すべて話すことに決心したのであり、被告人である藤井さんはいい人で感謝していると供述しており、ことさら被告人を罪に陥れるような悪意は持っていないのであり、真摯で信用できるものである。弁護側の主張するNと検察とのヤミ取引など存在しない。

Nが同席者の人数を2人から3人に変更したことは、メールや伝票の記載、取調官のヒントで詳細に思い出したのであり、現金を渡したとの根幹部分は一貫しており、供述経過は自然で信用できるものである。Nが勾留中に作成した上申書は捜査機関の作出したものではない。

Nの証言態度は、真摯かつ誠実で、記憶の濃淡により、分からないものは分からないと答えるなど、供述経過は自然で根幹部分は一貫しており、信用できるものである。

【武井検事】
【ヤミ取引】
弁護側のヤミ取引があったとの主張は根拠のない一方的な憶測であり、失当であると解するので反論します。

検察官の起訴権限は被害弁償や証拠隠滅の恐れなど種々の事情を考慮して、総合的に決定されるものであり、Nの融資詐欺についてもすでに約2億円は完済しており、未返済部分については追起訴しており、弁護側の刑事告発があるまで余罪について捜査を怠っていたとの主張は当たりません。

【O証言の信用性】
O証言は信用できません。弁護側によるOの陳述書が作られたのは、10月2日のN証言の後であり、第7回公判期日でOが「Nが検事に人数が合わないと怒られた。」「政治家の話をすれば詐欺の捜査がストップする。」と述べたのは、陳述書にない内容であり、その証言は信用できない。Oは、Nの事件に関する新聞記事を読むことができたので、OがNから聞いたのでなく、新聞記事の通りに供述を合わせたと推測できる。遅くともNがジャーナルを見た4月13日以降には、Nが「人数が合わなくて困っている。」と発言することは考えられない。

Oは「検察は敵」「Nは許せん」と手紙の中で書いており、Nに対する悪意があり、信用できない。

N自身の証言では、留置場で話を合わせて脚色することもあったということであるから、そのような留置場内で交わされた会話を信用することはできない。

【検察官との打ち合わせ】
検察官が行ったNの証人テストは正当である。証人の尋問予定事項であった融資詐欺やOとの手紙の内容について、わかりやすく説明するための準備であり、決して起訴しないと約束したわけではない。

【Nの供述調書の変遷過程】
弁護人は、供述調書の同席者の人数について不合理な変遷があったと主張するが、公判中心主義からすれば、調書の細かい点の不一致は重要でないから、その点、変遷の理由が調書に書いていないとしても何ら不自然ではない。弁護側は供述を偏見的で正しく理解しない見解である。

【現金授受の可能性】
ガストのドリンクバーは座席から3メートル離れているが、この距離でも気づかれずに現金授受は容易に行える。

【ほかの証言の信用性】
H・Yは、Nに多額の金銭を貸し付けており、そのようなH・YがNのために虚偽の供述をする動機はないので、信用できる。

H・Tが「渡すもの渡した。」と聞いたと証言したのは、非伝聞であり、伝聞法則はクリアできる。

【T証言の信用性】
T証言は信用できない。Tは、1年前のことなのではっきり覚えてないかもしれないと陳述書で自ら認めており、それにもかかわらず席を立っていないと強弁するのは不自然である。

【被告人の供述の信用性】
被告人は、1年前のことにもかかわらず、自ら書いておきながらメールの趣旨についてそこまで詳細に覚えていないと供述するなど逃避的で不自然であり、信用できない。

被告人の塾の口座は毎月家賃の引き落としに使われていたが、この月だけ、家賃の金額を上回る振り込みがあるのは不自然であり、現金授受をうかがわせるものである。

【市議の職務行為】
市議会の防災安全課の答弁は、水源の浄水プラントに有利となるものであり、現金授受は否定できない。被告人自身が浄水プラントの性能を評価していたことと現金の授受は両立しうるので、贈収賄の成立は否定できない。

【辞職後も影響力】
4月25日山家で会食の時は、市長選に出るため、市議としては辞職することが決まっていたが、たしかに辞職後は公務員ではないので賄賂にはならないが、それ以前からの市当局への働きかけを全体として捉えて、賄賂罪が成立するものである。

【関口検事】
【請託の内容】
請託とは、公務員の一般的職務権限に属する事項について、一定の行為を依頼することである。
弁護側は請託の内容が不明確と主張するが、Nの依頼内容は水源の浄水プラントにつき美濃加茂市とレンタル契約を締結することであり、特定されているので批判は当たらない。

【あっせん】
市議会で質疑応答をして、当局の前向きな答弁を求めたことは、市議としての権限に基づく影響力を積極的に行使して、あっせん利得処罰法のあっせん行為を行ったものである。被告人は防災課に2度も文書を送り付けており、防災課の公務員の判断に影響力を行使したことは明らかである。

被告人の供述は、現金の授受や飲食店内の状況について詳しくは覚えていないと逃げ込むものであり、自らメールをやりとりしていたにしては不自然であり、信用できない。

市長選挙期間中にTからのメールを読み飛ばしていたと供述しているのも、何か不利益なことから逃避しているものと思われる。

また、美濃加茂市へ資料として提出する文書についても、入手日を偽っており、業者と不明朗な関係を隠したかったからとみられる。

市議会答弁から4か月後の8月には、浄水プラントの実証実験にこぎつけており、まさに市議としての影響力を行使したものである。

【まとめ】
贈収賄は、公務の公正、政治活動の廉潔性、市民の信頼を害するものであり、悪質な犯罪である。近年の政治とカネの問題、公務員の倫理観の高まりを考慮すると、一般予防の見地からも厳しい処罰が望まれる。被告人は、不利益なことは覚えていないと逃げ、自己に有利な供述ばかりし、反省の態度は見られないことから、厳しい処罰が妥当である。

以上を踏まえ、求刑は、懲役1年6月、追徴金30万円を相当とする。

【郷原弁護人】「論告要旨の中「4月13日付捜査報告書に明らか」とありますが、どこに書いてありますか。」

【関口検事】「添付書類のジャーナルに明らかと思いますが。」

【郷原弁護人】「添付書類の内容が捜査報告書に書いてありませんが。」

【鵜飼裁判長】「当初から請求しなかった捜査報告書でしょうか。」

【鵜飼裁判長】「次回までに扱いを決めておきます。」