2015年12月9日水曜日

控訴審逆転の可能性はゼロ

控訴審を2回傍聴してみて、もはや検察側が逆転する可能性は皆無と思ったので、今のうちに書いておきます。

まず、証拠構造を確認しておくと、有罪方向の証拠は一審無罪判決の認定の通り、Nの供述のみです。

控訴審で検察が出してきた証拠は、「Nの供述は捜査機関に誘導されたり、迎合してなされたものではない」ことを立証するためのものです。

しかし、それが立証できたからといって、Nの供述の内容が正しい、現金授受が確実にあったことの証明にはなりません。

なぜなら、被告人本人と同席者Tの否認供述を覆す証拠は一切出していないからです。

いくらNの供述経過に関する証拠を重ねても、所詮、補助事実なので、一足飛びに現金授受があったという犯罪事実を認定することはできません。

ここで、証拠法の知識を確認しておくと、犯罪事実の認定には適式な厳格な証明を経た証拠能力のある実質証拠による認定が必要となります。実質証拠には、主要事実を直接証明する直接証拠と間接的に推定する間接証拠があります。

直接証拠の例は、殺人罪なら「AがBをナイフで刺したのを見た」という殺害現場の目撃供述など。
間接証拠の例は、「叫び声が聞こえた後、草むらから血まみれの男Aが出てきた」という目撃供述や被害者Bの衣服からAのDNAが検出されたなどです。

これに対して、直接証拠や間接証拠の信用性を判断するための証拠が補助証拠です。

典型例は、自己矛盾供述など刑事訴訟法328条で「供述証拠の証明力を争う証拠」で弾劾証拠と呼ばれるものです。もちろん、目撃状況や鑑定結果の齟齬を指摘するものも含まれます。

反対に、減殺された証明力を回復させる補助証拠は回復証拠と呼ばれます。「供述には誘導された疑いがある」と攻撃されたのに対して、「誘導はなかった」と反論するのがこれにあたります。これに対して、同一趣旨の証明力の強い証拠で元の証拠の証明力を増強する増強証拠は結局、実質証拠と同じになるので認められません。

証明力を争う場面の典型は、反対尋問です。刑事訴訟規則に規定があります。
刑事訴訟規則199条の4・1項
反対尋問は、主尋問に現れた事項及びこれに関連する事項並びに証人の供述の証明力を争うために必要な事項について行う。
反対尋問では、誘導尋問をすることができます。
刑事訴訟規則199条の4・3項
反対尋問においては、必要があるときは、誘導尋問をすることができる。
誘導尋問とは、「はい」「いいえ」で答えることができる質問(クローズド・クエスチョン)で、証人に答えを暗示させるような質問方法です。証言と反する客観的な証拠を突きつけて、相手方の証言の信用性を動揺させるのが目的です。

逆に、主尋問では、証人の身分、経歴などの確認を除いて、誘導尋問は原則として禁止されます。
刑事訴訟規則199の3・3項
主尋問においては、誘導尋問をしてはならない。ただし、次の場合には、誘導尋問をすることができる。
1 証人の身分、経歴、交友関係等で、実質的な尋問に入るに先だって明らかにする必要のある準備的な事項に関するとき。
2〜7号 (略)
主尋問は、5W1Hについて尋ねる質問方法です(オープン・クエスチョン)。

いきなり、
「この公園で犯人を見たのですね?」
と聞くのではなく、
「公園で何を見ましたか」
「男を2人見ました」
「どんな男でしたか」
「1人は大柄で茶色のコート。もう1人は青色のウィンドブレーカーを着ていました。」
「どんな様子でしたか」
「言い争いをしていて、大柄の男が掴みかかると、青い服の男が懐からナイフを取り出して、相手の腹に突き刺しました。」
というように、証人の記憶に頼りながら話を展開していくのが主尋問です。主尋問で広げられた話を、矛盾点をついて信用性を攻撃するのが反対尋問です。相手側が立証責任を負う事項については、真偽不明に追い込めば、相手方の立証は失敗するので、反対尋問は成功です。

主尋問で「Aです」と答えたのに対して、「BまたはCの可能性もあるのではないか」と問いかけ、「わからない」と答えればいちおう反対尋問は成功です。必ずしも「よく考えたらBだった」と確定しなくても、Aという事実の証明は失敗するので、いいことになります。もっとも、中途半端に突っ込んで藪蛇になることは避けなければなりません。証人に「BやCの可能性は全くない。なぜなら〜」と詳しく根拠まで述べられてしまうと、Aという事実が確定して相手の立証を助けてしまうことになります。

別に有斐閣の回し者ではないですが、以上の証拠法の用語の解説は、法学教室ライブラリの三井誠『刑事手続法3』が丁寧で分かりやすかったです。第一章の「証拠能力と証明力」のあたりをコピーして手控えておけば用語の理解に役立つと思います。ちょっと古いので本屋にない可能性が高いですが、県立図書館には置いてあると思います。光藤景皎『刑事訴訟法2』成文堂(『口述刑事訴訟法 中』の改訂版)も、伝聞法則について詳しく解説した本です。

本題に戻ると、この裁判の控訴審で仮に検察が「取り調べは適正だった。Nの供述には誘導は一切なかった」ことを立証できても、逆転できる可能性はゼロと判断した理由を書きたいと思います。

この裁判で争われているのは現金授受したというNの供述内容ですが、あくまで争点となっているのは、「4月2日と4月25日の小一時間」、「同席者Tが席を外した時」に、「現金を手渡した」ことの真否です。ほかの日時やNの供述とは別の方法で現金が渡ったという認定はできません。Nの知人のH・Tの「渡すもん渡した」という証言は、「いつ」「誰に」「何を」「どんな方法で」渡したかが明らかでないので、有罪認定の根拠にできません。一審の名古屋地検はNの供述と符合していると主張しましたが、あくまでNの供述の補助証拠として出しているので、別の日に別の方法で渡ったはずだということは言えませんし、信用性を補強することもできていません。一審判決は、狭義の「関連性なし」として斥けています。

むしろ、浄水器の設置工事に銀行の担当者も見に来ていたことを考慮すると、「渡すもん渡した」というのは、担当者の接待のことと解釈も可能です。どのみち、口頭なので言ったかどうかも分かりませんが。

「Nの供述に誘導はなかった」との立証に奏功しても、それでやっと同席者Tの「私は見ていないし、席を外してもいない。」という証言と同じ検討の土俵に上がるだけです。

名古屋地検は、口座の出入金記録を客観的な証拠と符合していると論告で述べましたが、そもそも賄賂の資金を律儀に銀行預金する人はいないだろうし、20万円程度ならいちいち引き出さなくても手元に持ってることは社会人ならよくあることだと思います。ちなみに、今これを書いている自分の財布の中の札束を確認したら、17枚入っていました(一万円札も千円札も紙の厚さは変わらないでしょう)。

不可解なのが、Nが銀行口座から頻繁に出入金していたことですが、筆者の推測では2つの意味があると思います。
1つ目は、差し押さえなどのリスク回避。
2つ目は、あえて複数の会社間で現金をやりとりすることで、ダミー会社を「生きた会社」に見せる下準備の意味があったと思います。経済的には無意味ですが、頻繁な現金の移動がある通帳を見せて、もっともらしい理屈をつけて銀行の担当者を信用させていたと思われます。似たような手口は、イトマン事件の被告人も使っていました。

検察は、Nの会社は「資金繰りに窮していた」と紋切り型に決めつけていますが、Nの主観では特に困っていたわけではないと思います。10月2日の第一審第3回公判で関口真美検事が水源の事業の見込みについて再質問したとき、「まんざら嘘でもなかった」とNは答えています。関口検事はスルーしてそのまま質問を続けていますが、これがNの本音ではないでしょうか。あくまで4億円の詐欺が本命で、浄水事業は複数あるダミー会社の副業感覚でやっていたのではないでしょうか。

公判でのNの印象でも、政治には興味ない感じだったので、どこから贈収賄という話が出てくるのか不自然に思いました。

弁護団も一審の最終弁論で「第3 中林の贈賄供述の内容自体の不合理性」という項目で不合理な点を詳述しています。特に、4月2日ガストに持って行った資料が検察の論告とは客観的に異なっていることを指摘して、「資料は口実で現金を渡すためだった」という主張は成り立たないと反論しています。(美濃加茂市長事件結審、揺るがぬ潔白への確信「第3 中林の贈賄供述の内容自体の不合理性」のPDFの4〜6頁)

浄水器の設置についても特に職務権限を乱用したという話でもないので「汚職」という表現は不適切と思い、争点になっている現金授受の「収賄」という言葉で表記したいと思います。

控訴審の印象でいうと、中村警部補の証人尋問の態度では、とても取り調べの疑問を解消するものではなかったので、これ以上掘り下げても、捜査機関への疑念を深めるものにしかならないと思います。

控訴審での検察の異議も、「何月何日付の調書でしょうか」という程度で、名古屋高検の担当検事もあまり逆転できるつもりは持っていない印象を受けました。

大阪地検特捜部が自分で呼んだ証人を偽証罪で起訴して、証言を覆させた事件もあるので(冤罪デパート大阪地検が、次の標的にした羽賀研二 )、全くないわけではないですが、この状況では逆転の可能性はないと確信しています。

これ以上、無駄な引き延ばし工作に引きずられることなく、早期に無罪判決が確定することを希望します。

2015年11月27日金曜日

11月26日 控訴審第2回公判 証人尋問

午後1時30分、控訴審の第二回公判が名古屋高裁第1号法廷であった。木口信之裁判官が退官し、裁判長が村山浩昭裁判官に交代する中で開廷した。

この日は贈賄供述の経過についてNの取調べを担当した愛知県警の中村道成警部補の証人尋問を行った。

主な尋問事項は、平成26(2014)年3月15日から4月中旬にかけての取調べで、(1)Nが初めて贈賄を自白した経緯、(2)平成25(2013)年4月2日ガストの同席人数が2人から3人に変遷した経過とその理由、(3)同年4月25日山家で渡したという20万円の原資についてである。

尋問は、中村警部補自身が取調べ中に作成していた捜査メモを適宜示しながら行われた。捜査メモはワープロ打ちが大部分で、一部が手書きで作成されていた。

(1)3月15日の詐欺事件の取り調べで、融資詐欺以外にやってないか尋ねたところ、Nは泣き出して、藤井さんに20万円渡したことを初めて自白した。取調べ中に、家族の話になり、涙を流し始めて、贈賄を打ち明けた。その内容を3月16日と17日にNに上申書を書かせて提出させたと述べた。

反対尋問で弁護人が、別の贈賄の件を話した時のNの様子を尋ねると、ガストの10万円の件は普通に話していた、名古屋市議に300万円渡した話も、感情的にならずに簡単に話していたと答えた。どうして最初に藤井さんの話をした時だけ涙を流したのかを聞くと、Nは家族、特に娘さんのことを思って涙を流したのだと思うと答えた。

捜査の経緯については、名古屋市議の周辺を洗っていたら、Nの銀行への融資詐欺が発覚した。自分の所属する捜査2課は贈収賄と選挙違反、特殊詐欺が担当で、本来は融資詐欺は範囲外だが、大きい事件のため上司の指示で、融資詐欺の捜査を開始した。美濃加茂市長への波及を視野に入れていたわけではないと答えた。贈賄を自白する前の2月か3月に、話の中で「藤井さんはすごくいい人」とNが言ったことがあった。何のきっかけかは覚えていないと述べた。

(2)ガストの同席者について、当初の調書で「Tはいなかった」としたのは、「Tがいなかったかもしれないと思う」とNが話しており、調書は基本的に断定調で書くように指示されていたため、人数の裏付けが取れるまでは、「いなかった」と記載した。その後、店の記録で人数が3人と判明したため、再度調書を取り、変更した。変更した理由については記載しなかった。

要するにメールの内容や店の記録の方にNの供述を合わせたのでは、N自身の一審の公判の「駐車場からガストの店内に3人で向かう場面を思い出した」という証言と矛盾するのではという弁護人からの質問に対しては、メールの文面をそのままNに見せたわけではなく、あやふやな点について記憶喚起のためメールの内容を伝えながら質問して詰めていったと答えた。

ガストに持って行った資料について、「以前、華川に持って行ったのと同じ資料だったので、この時に現金10万円を資料にカモフラージュして渡したのだと思う。」というNの供述と、実際には異なっており、飲用に問題ないことを防災課に説明するためにN自身が書き込みをした資料を美濃加茂市に持って行った矛盾については、Nが大事な資料ではない、資料に紛れて現金を渡したと言うので、資料の内容についてまでは詳しく聞かなかった、現金を挟んだ資料の形状などについて聞いただけだったと答えた。

(3)4月25日朝、H・Yから50万円借りたとNが供述したことと、逆に捜査メモには借りに行った形跡がないと書かれていることに関連して、裏が取れなかったため、20万円の原資を当日銀行から90万円出金したことと辻褄合わせしようとしたのでは、という質問には、出金した90万円の使い道は聞いていた、最終的にETCの照会で4月25日夜にH・Yの自宅にNが借りに行ったことが裏付けられたが、そのことを前提にNに質問したかは覚えがないと答えた。

H・Yを詐欺の共犯で逮捕しなかったことについては、捜査の方針でしょうがなかったと述べた。

捜査メモの取り扱いについて、犯罪捜査規範で記録を残す義務があるが、破棄する場合がないとは言えない。今回は、否認していたので、メモの意味があった。録音・録画の実施については、特に指示されなかったのでしなかったと述べた。

公判準備について、一審の公判段階で出廷の可能性は聞かされていたので、休日に6、7時間打ち合わせした。捜査メモは手書きも含めて検事にすべて見せた。

途中2回の休廷を挟み、午後5時頃、証人尋問を終了した。

証人は180cm以上の長身でそこそこの体格だったが、声が小さく、全体的に歯切れが悪く、たびたび裁判長から「もう少し声を大きく。語尾まではっきりとお願いします。」と注意されていた。

詐欺事件の取調べを担当した苅谷昌子検事の証人尋問について、代わりに陳述書を提出することとし、12月11日に予定していた公判は取り消された。次回以降の期日については、弁護人、検察官、裁判所の三者協議で決定することにして閉廷した。

2015年8月25日火曜日

8月25日 控訴審第1回公判

一審無罪判決の控訴審が午後1時30分名古屋高裁で始まった。裁判長は木口信之裁判官、右陪席大村泰平裁判官、左陪席肥田薫裁判官。

まず、検察官提出の6月18日付の控訴趣意書、それを補充する8月18日付の意見書を確認した後、検察官の取調べ請求した1号から12号までの書証と証人申請の検討に入った。

書証について、弁護側は6月20日付及び7月15日付の答弁書の通り、刑事訴訟法382条の2の「やむを得ない事由」によって原審で取調べ請求することができなかった証拠にあたらないとして、不採用を求めた。

木口裁判長は弁護側に刑事訴訟法326条の同意をするか尋ねたが、郷原弁護人は不同意と述べた。捜査報告書につき、当該日時に警察官が作成したことを立証しようとする部分は供述証拠であって、検察側の非供述証拠であるとの主張は認められないと述べた。

証人尋問の請求について、弁護側は関連性がなく、予定する尋問事項も明らかでないため、不必要であると述べた。弁護人は、警察官の中村証人はすでに一審の公判前整理手続でこちら側が請求したにもかかわらず、検察が取調べを拒否したことを指摘し、却下を求めた。

木口裁判長は刑事訴訟法382条の2のやむを得ない事由ありとして、ともに警察官である中村証人及び検察官である苅谷証人の証人尋問を行うことを決定した。(8月26日訂正)

弁護人は、検察側の証明予定事項が明らかでないことに異議を述べ、裁判長が検察官になるべく早く証明予定事項を明らかにするよう促した。

裁判長が検察の刑事訴訟法328条の予備的主張につき意見を求めたが、弁護側は特にございませんと異議は述べなかった。

次回中村証人の尋問を11月26日、次々回の期日を苅谷証人の尋問12月11日に行うことを決定して30分ほどで閉廷した。

検察側は3名で1人は女性の検察官。ほとんど応答していたのは、裁判官に近い席の男性の検察官。

刑事裁判の控訴審について

控訴に関してはちょっと自分もあやふやなので、自分用に整理します。

一審、二審までが事実審。最高裁は法律審。

二審までは証人尋問や新たな証拠を出して事実を争えるが、刑事裁判の控訴審は原則として事後審。

事後審とは、訴訟記録に基づいて一審判決の当否を事後的に判断。要するに書面審査ではねるかどうか決める。問題なければ控訴棄却。不当な点があり、「やむを得ない事由」で新たな証拠を調べる必要があると判断されたときに、公判で証拠を取り調べ、その結果で控訴棄却か、原判決破棄かを判断。

わが国の控訴審は「事後審」と呼ばれ、1審の手続や事実認定に誤りがあるかどうかを判断するために、1審の記録だけを審査するのが原則である。裁判をもう一度やり直すわけではない。新聞の見出しによく「高裁も実刑」などと書いてあるのをときどき見かけるが、あれは間違いである。正しくは「高裁、一審の実刑判決を是認」ということになる。高裁では新しい証拠を取調べないのが原則であり、「やむを得ない事由によって第1審の弁論終結前に取調を請求することができなかった」場合でない限り、新しい証拠を取調べないことになっている(刑訴法382条の2、393条第1項)。(刑事裁判を考える:高野隆@ブログ)

犯罪事実がないとして一審が無罪判決だった場合、いきなり破棄自判はできず、破棄差し戻しか、新たに犯罪事実を証明する証拠を取り調べるかしないと有罪判決は出せない。

同じく一審無罪だった事件の控訴審について

ところで,この破棄自判,常に許されるかというと,判例法上の制約があります。第一審判決が犯罪事実の存在を確定せず無罪を言い渡した場合,控訴審がなんら事実の取り調べをすることなく第一審判決を破棄し,訴訟記録及び第一審にて取り調べられた証拠のみによって直ちに犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることはできないという趣旨の最高裁判例があります。 
さて,以上を小沢氏のケースに当てはめてみますと,以下のようになるかと思います。小沢氏の裁判では,虚偽記入の違法性を認識していなかったことが無罪判決の理由と報じられています。これが,事実認定の問題なのか,法律判断なのか,正直言ってよくわからない面がありますが,仮に事実認定の問題だとした場合,次のようになるかと思います。 
仮に,控訴審が,第一審判決を妥当だと判断した場合(小沢氏無罪だと判断した場合)は,控訴棄却。 
仮に,控訴審が,第一審判決を不当だと判断した場合(小沢氏有罪だと判断した場合)は,控訴審で事実の取り調べをしていないことから,破棄自判の有罪判決を下すことはできず,破棄差し戻しで,審理が東京地裁に差し戻される。(千代田区麹町 やまと法律会計事務所 Blog)

 下は有斐閣の『判例六法』に掲載されていた判例
第一審が収賄罪につき犯罪の証明がないとして無罪を言い渡した場合に、控訴審が右判決を破棄し、被告人の職務権限について事実の取り調べをしただけで、事件の核心をなす金員の授受自体について何ら事実の取り調べを行うことなく、訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠のみによって犯罪事実の存在を確定し有罪判決をすることは刑事訴訟法400条ただし書きに違反する。(最判昭和34年5月22日刑集13巻5号773頁)
要するに、今日の名古屋高裁の第1回公判で結審したら、控訴棄却が確実。次回期日に取り調べます、となったら、わからない、ということです。

この事件の一審の名古屋地裁では、ほとんど唯一の有罪方向での証拠となる供述をしたNの証人尋問を10月1日と2日連続で実施、さらに信用性を吟味するため、Oと対質で再尋問。このため、2014年内に判決の予定が今年3月に延期。ほかに、検察側の要求で10月8日、10月16日にNの知人などを計3人取り調べ。高裁でまたN関連の証人請求をしようにも「やむを得ない事由によって第1審の弁論終結前に取調を請求することができなかった場合」といえるかは難しいのではないかと素人的には思います。

控訴を認めて破棄した率は1割弱。三省堂の『デイリー六法』の巻末にも司法統計のデータが載ってるので確認。

ところで、最近、控訴審の事後審化が広く指摘されており、統計上も顕著です。司法統計によれば、平成15年の全国の控訴事件8875件(被告人側8711件、検察官側214件)のうち、第一審判決が破棄されたのは1310件(14.8%)ありましたが、平成25年の全国の控訴事件6108件(被告人側6038件、検察官88件)のうち、第一審判決が破棄されたのは569件(9.3%)にとどまりました。第2ラウンドに進むことができる続審より、第1ラウンドが誤っている場合にだけこれを是正するという事後審のほうが、通常、破棄率は低くなるものと考えられます。控訴審に関する刑事訴訟法の条文は大きく改正されていないので、変わったのは運用ということになります。(弁護士法人鬼頭・竹内法律事務所)


2015年3月10日火曜日

一審判決と公判全体の感想(2) 著しく公平性、適格性を疑う検察の姿勢

ここからはこれまでの経緯を振り返り、個人的に感じたこの事件をめぐる刑事司法上の問題を提起したいと思います。あくまで第三者の考えなので、当事者や弁護団はもちろん、無罪判決が出た今、マスメディアで引用される専門家のコメントで指摘されるような問題は脇に置き、大筋から離れた議論になることをご承知おき下さい。このブログでは、刑事裁判は決して専門家だけの問題ではないとの考えに立ち、報道で公知になっている情報や一般の傍聴人が知りうることのできる情報を基にして、そこから考えつく問題を列挙していきます。たぶん、ふつうの法学部を出た人なら誰でも思いつくことですので、適当に読み飛ばしても構いません。

まずは事件の経緯です。

2013年
3月7日 Tの紹介で藤井浩人市議(当時)、水源社長N、Tの3名が木曽路錦店で初対面。
3月14日 藤井市議、市議会で防災対策の質問
3月22日 藤井市議、N、T、名駅の華川で会う(2回目)。
4月2日 藤井市議、N、T、ガスト美濃加茂店で会う(3回目)。Nが藤井市議に10万円渡したと主張。
4月19日 美濃加茂前市長渡辺直由氏、体調不良により引退表明。
4月25日 藤井市議、N、T、名古屋の山家住吉店で会う(4回目。T証言では5回目)。Nが藤井市議に20万円渡したと主張。
5月9日 渡辺前市長辞職。
6月2日 藤井氏、美濃加茂市長選挙当選。
7月31日 美濃加茂市の中学校に浄水設備の実証実験の契約(正式なレンタル契約は来年3月に判断)。
8月中旬 中学校に浄水設備の設置工事。
秋頃 藤井市長、N、T、山家住吉店で会う(5回目。T証言では6回目)。これ以降、会うことはなかった。
2014年
2月6日 N、詐欺罪で逮捕
6月24日 藤井市長逮捕
8月25日 藤井市長保釈
9月17日 初公判 冒頭陳述
10月1日・2日 N証人尋問
10月8日 T証人尋問、TN証人尋問
10月16日 H・Y、H・T証人尋問
10月24日 被告人質問
11月11日 N、保釈
11月19日 N再尋問、O証人尋問
12月19日 論告求刑
12月24日 最終弁論
2015年
1月16日 N懲役4年実刑判決(確定)
3月5日 藤井市長無罪判決

以下、とりとめなく気づいた問題点を列挙します。

・虚偽供述、不当逮捕
一審無罪判決は、贈賄者が虚偽の証言をした疑いを認定しましたが、もし捜査官が通謀して虚偽の証言をさせたならば偽証罪(刑法169条)の共犯となるだけでなく、特別公務員職権濫用罪(刑法194条)の疑いもあります。それぞれの法定刑は、3月以上10年以下の懲役、6月以上10年以下の懲役又は禁錮です。

・国家賠償
憲法40条は、明文で無罪判決を受けた者の刑事補償を認めています。国家賠償は公務員個人でなく、国に賠償させるのが通常です。しかし、あまりに悪質な事件については公務員にも負担させるべきという声が上がることもあります。過去には、堀川事件という冤罪事件の国賠で当該公務員に損害賠償の一部を連帯して負担させた裁判例もあります。図書館で確認できるものとしては、東京高判昭和61年8月6日判例時報1200号42頁(確定)。堀川事件を紹介しているブログ→堀川事件—警官犯罪を追いつめた11年

・不当な取調べ、供述経過の不自然
取調べの問題はいろいろありますが、水源社長Nが贈賄を自白したのは3月15日の愛知県警の取調べの中です。詐欺罪で起訴された後です。起訴前勾留を公訴の提起、追行の準備ととらえる説に立てば、余罪とはいえ起訴後の取調べは望ましいことではありません。N自身の供述では、警察から「ほかにないのか」「政治家と会ってないか」と申し向けられて、贈賄を自白したことになっています。これだけでも捜査機関の誘導の可能性が出てきますが、供述の動機について警察から「うそつき父ちゃん」と人格を否定するような言葉を受けています。犯行は明白なのにずっとしらばっくれているならこういう言葉が出てくるのも分かりますが、すでに自白し捜査に協力的になっているNに対してやや言い過ぎな気がします。被告人本人、同席者Tへの任意の取調べでも、初回から恫喝的な取調べをされた事実からすれば、二度あることは三度あるので、Nもまた家族も逮捕するぞなどと脅された可能性があります。N本人は争っていないので分かりませんが、N供述の任意性を争う余地もあったと思います。(起訴後勾留中の被告人に対する余罪の取調べについて 久岡康成)

・Nが問われていた罪の法定刑と処断刑
弁護団はヤミ司法取引の可能性を指摘しましたが、やってもいない罪を自白するはずがないというのが一般的だと思います。そこで、Nが置かれていた状況を確認したいと思います。Nが起訴されていた罪は、詐欺(刑法246条1項)、有印公文書偽造(刑法155条1項)、同行使(刑法158条1項)、贈賄(刑法198条)、あっせん利得処罰法4条違反です。それぞれ法定刑は、10年以下の懲役、1年以上10年以下の懲役、1年以上10年以下の懲役、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金、1年以下の懲役又は250万円以下の罰金です。仮に、詐欺事件のみが起訴されていたとしたら、処断刑は、併合罪となるため、1年以上15年以下の懲役です。これに贈賄がつくと、処断刑の長期に変化はなく、1年以上15年以下の懲役または250万円以下の罰金と、罰金がつくのみとなります。量刑相場は分かりませんが、最近あった名古屋の美宝堂事件では総額7000万円の詐欺で懲役3年の実刑となっています。

・生殺しとしか思えない異様な保釈条件
8月に藤井市長が保釈された時、口裏合わせを防ぐためとして、副市長含む市職員約30名に接触禁止の制限がつけられていました。裁判への出廷を保証する保釈の趣旨からすると、このような制限をつけることは疑問です。口裏合わせ=証拠隠滅の防止というなら、裁判所の職権または検察官の請求で公判前に証言録取することはいくらでも可能だったはずです。実際、弁護団の請求により、公判前の8月25日と9月9日に現金授受の現場とされたガストと山家住吉店の現場検証がされています。そこまで仰々しく口裏合わせを防止したにもかかわらず、公判では市職員への圧力となる具体的なやりとりや市当局内部の意思決定の過程というのはほとんど明らかにされず、ネットで誰でも閲覧可能な議会質問の議事録が圧力の証拠として出てきただけでした。好意的に見て、極めて不誠実な訴訟追行というほかないし、素直に見れば苦し紛れの嫌がらせ、さらに邪推すれば、あえて社会活動に著しい支障が生じるように仕向け、好奇の視線に晒し、本人と周囲に不要、不当な打撃を与えることが目的だったともとれます。地方自治体の首長ということも考えると、市政の停滞、混乱、市民生活上の不利益は重大なものがあります。

・名古屋市議らへの300万円のあっせん収賄の自白
Nは公判廷の供述で、名古屋の市民病院に浄水プラント導入を働きかけるために、名古屋市議の関係者を通じて300万円を渡したと自白しています。はっきりと決裁権のある役人に渡したとまで言っていることから、本来ならこちらが捜査対象になってもおかしくないはずです。他の公務員に職務上の不正をするよう働きかけるあっせん収賄罪の法定刑は刑法197条の4によれば5年以下の懲役です。

・Nに違法な金利の貸し付けがあったこと
Nは水源が資金繰りに窮していた事情として、かつてゴルフ場預託金問題や病院の横領問題で暴力団から金を借り、厳しい取り立てを受けたと述べています。恐喝罪の法定刑は刑法249条1項によれば10年以下の懲役、出資法5条違反は5年以下の懲役又は1000万円以下の罰金です。

・水源の資本金が見せ金であったこと
見せ金は公正証書原本不実記載罪とされますが、刑法157条1項によれば5年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。払込取扱銀行と通謀のある預合いの場合、会社法965条によると5年以下の懲役又は500万円以下の罰金です。

・捜査機関としての公平性、公正性が試される愛知県警、名古屋地検
以上のように、Nは公開の法廷で贈賄と詐欺以外にも、様々な罪を自白し、またN自身も暴力団関係のヤミ金被害に遭ったことを述べています。いずれも看過しがたい犯罪で、取締りを全く怠っていたとしたら信じられないことです。Nを自ら取り調べ、開廷直前や証人尋問当日の午前と午後の休憩の間にも熱心に打ち合わせをしていた関口真美主任検事は、「供述態度は真摯かつ誠実で、供述経過は自然で信用できる」とN証言を評価していることから、公判廷で明らかにされた犯罪の容疑をみすみす見逃すことはないと信じています。

・検察官の起訴独占を補足する制度
検察庁のホームページで「国家社会の治安維持に任ずることを目的とし、検察権の行使に当たって、常に不偏不党・厳正公平を旨とし、また、事件処理の過程において人権を尊重すべきことを基本としています。」と検察の役割を説明しています。刑事訴訟法239条1項によれば、何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができます。刑事訴訟法260・261条で、検察官は告発人にその処分結果と理由を通知することになっています。検察官の起訴独占の例外として、2回目の不起訴処分に対して、検察審査会の審査員11人中8人以上による起訴相当の議決があったときは、強制起訴となります(検察審査会法41条の6)。

・とにかく悪印象を与えようという稚拙な立証
今回の公判では、検察側が異議を連発するという珍しい場面が見られました。意図は不明ですが、真相追究に消極的な感じがしました。弁護側が呼んだ証人に対しては、証言の内容に反論するというより、悪印象を与えようとしていました。現金10万円を封筒に二重に入れたとする再現写真をプロジェクタに示して、わざとNに訂正させて一般の傍聴人に印象づけようという小細工もしていました。再現実験は6月8日警察署内の取調室だとされますが、公判前整理手続にあえて出さなかったという手続き上の問題と、Nの自白開始から相当日にちが経って作成された経緯も不審です。心理学の実験では、架空のイメージを想像させるだけでも、後日の記憶が歪むことがあるというので慎重に取り扱う必要があります(高木光太郎『証言の心理学』中公新書、榎本博明『記憶はウソをつく』祥伝社新書)。伝聞法則を潜脱するような立証活動は許されません。

・論理破綻していた論告
一例を挙げると、各証言の評価が支離滅裂でした。「N証言は、分からないことは分からないと答えるなど自然で信用できる。捜査機関に誘導された結果ではない。」「被告人は、1年前のことなのに、そこまで覚えていないと答えるなど不都合なことから逃げており、信用できない。」「T証言は、1年前のことを明確に否定しており不自然。」「O証言は、悪意があり信用できない。新聞記事に合わせたに違いない。」こうして並べるだけでも全く整合性がないことが自明で、証拠評価の能力に疑問を抱かざるを得ません。到底真実とは言えないひどい歪曲と強引なあてはめに基づく論告を書いた主任検事の関口真美検事、伊藤孝検事、早川充検事、武井聡士検事の4名、また決裁の許可を出した名古屋地検の幹部の能力も疑われます。

・担当検事の法曹としての適格性に疑問を抱く様々な事情
能力面だけでなく、資質、公正性にも疑問符がつきました。人質司法のような人権侵害の捜査だけでなく、刑事訴訟法196条を無視するような関係者の名誉を害する言動が繰り返されました。さらに、名古屋地検からNの弁護人に対して刑事告発の扱いについて事前に伝えられていたなど、裁判の公正を揺るがす疑わしい行為が明らかになりました。もし弁護士が相手方と通じていたとしたら利益相反で懲戒を受ける重大な問題です。法曹としての資質に重大な疑問があります。大阪地検特捜部証拠改竄事件のように検察官適格審査会の審査にかけられてもおかしくない問題です。

・もし検察が控訴したとしたら担当検事も証言台へ
仮に控訴したとしても、控訴審でもやはりN証言の供述経過の信用性が問題とならざるを得ないため、全過程を録音・録画した記録でもない限り、取り調べた警察官、検察官自身を証人尋問することが予想されます。控訴審は高検が担当することになるので、地検の検事を取り調べても、特に支障はないはずです。名古屋地検の担当検事は控訴するかしないかを判断する前に、判決文を隅々までよく読んで見落としがないか確認する必要があるでしょう。

敗訴した名古屋地検に与えられた控訴期限は3月19日です。

2015年3月7日土曜日

一審判決と公判全体の感想(1)

一審判決が出たので、全体的な感想を書きたいと思います。

ちなみに、新聞等では贈賄者の氏名が報道されていますが、更生を期待するのと、犯罪者といえども逮捕されて十分に反論する機会を持たない人間への集団いじめに加担する趣味はないので、公人は実名、民間人は匿名の原則に従って、匿名としました。(「人権と報道」概論 Ⅲ 報道被害をなくすために

受託収賄罪の成立には、現金授受とそれに対応する請託が必要ですが、本件では現金授受の有無が最大の争点となりました。

一審判決は、「現金授受の核心的部分について、臨場感に欠ける」として無罪としました。

公判を傍聴して、そう感じた部分は、すでに10月2日の第3回公判のN証人に対する弁護側反対尋問に現れていました。


裁判官による補充尋問で、鵜飼裁判長が質問した2点が決定的だったと思います。山家住吉店で2回目の授受時にテーブルの反対側に回り込んで隣の席に移動した理由と、受け取った時の藤井さんの表情について訊いた時に、それまで日時や金額について淡々と早口で答えていたNが、虚を突かれたように間が空き、調子が乱れていました。特にどうということはないのに、一瞬答えに悩む様子が垣間見えたことで、現金授受が架空の作りごとである可能性があるという心証が生まれた瞬間だったと思います。

あとは、その可能性の信憑性と虚偽の供述をする理由・動機を確認する作業だったと思います。

ちなみに、この点を指摘したメディアは管見の限り、紙媒体の新聞や電波のテレビではなかったと思います。ネット記事を含めれば、フリージャーナリストの関口威人さんがこの点に触れていました。


最終的に判決では、N自身の記憶に基づかずに虚偽の供述をした疑いがあるとし、その動機にまで踏み込んでいます。これは刑法169条に抵触する重大な問題です。宣誓をした証人が自己の記憶に反する事実を述べることは偽証罪にあたります。そのため、国会答弁では「記憶にございません。」がマジックワードとなっています。偽証罪の法定刑は3月以上10年以下の懲役です。

もっとも、多数回打ち合わせしていた検事とのヤミ取引の可能性については断定を避けました。裁判所は厳格に推定無罪の原則を適用したのだろうと思います。

しかし、全体としては弁護側の主張をほぼ全面的に認め、検察官の提出した証拠のほとんどを排斥しています。検察官がドヤ顔で出した客観的証拠と称するメールや銀行口座の記録の類いは「関連性なし」として採用されていません。これは刑事訴訟法学的には犯罪事実を認定する最小限度の証明力すらないという意味です。検察官の完敗です。

判決は刑事司法の当然の原則を守って、朗読に2時間半以上かかるほど、丁寧に事実を認定していたと評価できます。

鵜飼祐充裁判長と伊藤大介裁判官、武藤明子裁判官は、裁判のプロフェッショナルとして、非常によい仕事をしたと思います。

2015年3月5日木曜日

【速報】無罪判決

被告人は無罪。

N証言は信用性なし。現金授受を裏付ける第三者の目撃証言も客観証拠もない。

名古屋地裁刑事第6部鵜飼裁判長はN証言の信用性について詳細に指摘。判決朗読は午後2時から4時45分に及んだ。

3月6日追記】

ブログ主が間接的に聞き取った内容は以下の通り。

裁判長は最初に主文を読み上げた後、判断した理由を説明。

本件では現金授受の事実を基礎づけるのはN証言のみ。それ以外の第三者の証言や客観的な証拠は出ていない。

そこで以下、N証言の信用性について検討する。

N証言は現金授受の経緯、金額ついて具体的かつ詳細であるが、現金受け渡しの核心的部分について臨場感に欠け、合理的な疑いがある。

賄賂の授受という非日常的な出来事であるのに、Nの捜査段階において当初、山家住吉店の2回目の授受のみ供述しており、ガストの1回目の授受の方を忘れていたというのは疑問がある。

1回目のガストの授受について、同席者Tがドリンクバーに3人の飲み物を取りに席を立ったと答えているのに、そのドリンクの種類について覚えていないのは不自然である。

同席者の存在について、変遷が見られる。当初2人で会ったとしていたが、3人であったと供述を変え、その同席者に授受の現場を見られないように意識していたと答えているにもかかわらず、3月の取り調べ中ではよく覚えていなかったというのは不自然である。

検察官はメールや銀行口座の記録がNの供述を裏付ける客観的な証拠と主張するが、これらは関連性がなく、補強証拠ともならない。

メールの文面は2回とも授受の前後のやりとりはほぼ同じであり、多様に解釈できるもので、現金の受け渡しの趣旨を証明するものとはならない。

Nは公判前に検察官と多数回打ち合わせしており、N自身の記憶に基づかずに、証言した疑いがある。

弁護人は検察官とNとのヤミ司法取引があったと主張するが、闇取引があったと断定することはできない。

しかし、多額の詐欺事件で罪に問われており、自己の量刑に関心のあるNとしては、捜査機関の関心を自己の詐欺事件以外に向けたり、自己の量刑を軽減しようとして、捜査機関に迎合して虚偽の犯罪事実を供述する可能性はある。

以上の通り、Nの供述は信用性がなく、犯罪の証明がないことに尽きるから、被告人に無罪を宣告する。

検察官の控訴期限は3月19日。