2016年12月3日土曜日

不可解な逆転有罪は日本版「司法取引」の先取り判決

新聞各紙の判決要旨を比較してみて、何回読んでも腰の据わらない表現で逃げに入っていて、十分に納得できる理由は示されていないと感じました。判決の論理については記事を改めて後述しますが、公判の中でなく、公判の外の状況で結論を決めた印象があります。

要するに、今年5月24日に成立した日本版司法取引を容認する刑訴法改正を受けて、前例をいち早く作るという政治的配慮が背景にあると推測します。いわゆる「検察ファッショ」の動きに裁判所が忖度して判決をねじ曲げたのが原因だと思います。

法律で認められていない「新しい捜査手法」を裁判所が合法化した動きは、通信傍受法成立以前の盗聴行為を通信傍受法成立のわずか4か月後に合憲判決を出した電話検証事件(最決平成11年12月16日百選[9版]34事件)があります。

判決前日(朝日は2日前)、新聞各紙(中日、岐阜、朝日、毎日、読売)がこれまでの経緯をまとめた前触れ記事を掲載していましたが、産経新聞だけが少し特異でした。他紙が長めのインタビューを載せるなど、わりと大きく扱っていたのに対して、産経は扱いが小さめで、他にないコメントが入っていました。

一審判決の経過を書く所で「贈賄側と収賄側で事実認定が異なる“ねじれ判決”」と一般論で評価する書き方をしていました。事実と評価を混在させた書き方は、三段論法的には論理的でない文章の典型ですが、“ねじれ判決”とさも困った判決であるかのように匂わせていました。

さらに、匿名の「検察幹部」のコメントを引用していました。

浄水設備汚職控訴審 美濃加茂市長にあす判決 贈賄側証言の信用性争点 産経新聞 11/27(日) 7:55配信 (WEB魚拓)

検察幹部の一人は「市議時代からのつながりを見れば(収賄は)明らかだ。客観証拠の積み重ねで立証は十分。控訴審ではしかるべき判決が出ると思っている」と強調。

「幹部」ということは、担当検事ではなく、少なくとも名古屋高検の次席検事以上か、東京の最高検、東京高検、法務省出向中の検事の可能性があります。

そして、控訴審判決翌日の記事は、“ねじれ”が解消されたと2人の「法務・検察幹部」のコメントを載せています。さらに、元東京地検特捜部の高井康行弁護士のコメントがありました。

ちなみに、紙媒体のタイトルは「美濃加茂市長逆転有罪 高裁判決 贈賄社長証言に「信用性」」となっていますが、WEB版だけ「判断分かれたポイントは」と解説風のタイトルになっています。

1審と正反対の結論 判断分かれたポイントは… 産経ニュース 2016.11.28.20:08配信  (WEB魚拓)

 受託収賄などの罪に問われ1審で無罪判決を受けた岐阜県美濃加茂市長、藤井浩人被告に逆転有罪判決が言い渡された。賄賂の受け渡しは密室性が高く物証が得られにくいため汚職事件の捜査は供述が最大のカギを握る。今回は供述の信憑(しんぴょう)性をどう評価するかで判断が分かれ、正反対の結論が導き出された。
 「証拠を見てもらえれば有罪になると思っていた」。法務・検察幹部の一人は淡々と判決を振り返った。1審は贈賄側と収賄側で事実認定が異なる“ねじれ”が生じていたが、検察内では「裁判官が変われば控訴審で然るべき判決が出る」(別の幹部)との見方が大勢を占めていた。
 検察側立証の核となったのは、藤井被告への贈賄を認めた地下水供給設備会社社長、中林正善受刑者(46)=懲役4年の判決確定=の証言だ。
 弁護側は「社長が余罪追及を免れるため検察と取引した」と主張。1審判決は贈賄側に虚偽供述の疑いがあるとまで言及していた。
 控訴審でも中林受刑者の証言の信用性が争点となり、職権で証人尋問が行われた。藤井被告が受け取った賄賂は30万円だが、「額が少なく、(他の使途と)紛れてしまう」(別の検察幹部)という問題もあった。
 検察側は控訴審で、賄賂の原資とされた金融機関の出金記録や現金授受後にメールが急に増えた点などを指摘し、供述を裏付けた。
 元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士は逆転有罪判決について、「控訴審で贈賄側から破綻のない証言が出たことと、検察側の裏付け立証もより緻密にされたのが主な理由だ」との見方を示した。今回の公判では、供述の信用性を慎重に吟味し、立証することの重要性があらためて示された形だ。

この高井康行弁護士こそ、国会の参考人質疑で与党公明党推薦で日本版司法取引を含めた法改正に賛成の意見を述べた人物です。

さらに、産経新聞が偏っているのは、判決に批判的な立場からのコメントが一切無いことです。

紙媒体にはあるが、WEB版では削られている「裁判官の心証が分かれたことが大きい」とする落合洋司弁護士のコメントは、朝日、毎日、中日にも掲載されていて、内容的には判決の文面を一般論として論評したものになっています。

しかし、産経新聞だけが引用した高井康行弁護士の「検察側の裏付け立証もより緻密にされた」というコメントはどうでしょうか。この2年半近く、様々な記者や市民が一審や控訴審の審理の流れを見てきた実感に合致するものでしょうか。まるでポジショントークのような物言いと感じます。

この動きから覗えるのは、この事件の行方に検察庁として並々ならぬ関心を持っていて、八方手を尽くしての世論工作&政治的圧力をかけていたことが推測できます。もっとも、検察の広報役として動いたのは産経新聞だけでした。

ここで時系列で控訴審の流れと日本版司法取引の法改正の動きを振り返ってみます。

控訴審の流れと国会の動き
2015年3月5日 一審名古屋地裁 無罪判決
3月18日 名古屋地検控訴
7月1日 刑訴法改正案 国会参考人質疑 賛成意見 高井康行弁護士 反対意見 郷原信郎弁護士
8月25日 名古屋高裁 控訴審初公判
10月6日 木口信之裁判長が依願退官 村山浩昭裁判長に交代
11月26日 第2回公判 証人尋問(取り調べ担当刑事)
2016年2月頃 職権によるNの再尋問決定
4月1日 左陪席肥田薫裁判官が静岡地家裁に異動 赤松亨太裁判官に交代
5月23日 第3回公判 証人尋問(N) 関口検事リターン
5月24日 刑訴法改正案成立
7月27日 第4回公判 最終弁論
11月28日控訴審逆転有罪判決

まず、状況として指摘できる点

・控訴審の期間の長さ
一審は判決まで9か月。控訴審は1年8か月と倍以上。公判回数は一審が全9回(うち証人尋問5回)。2014年10月から11月にかけて集中的に取り調べ。一方、控訴審の公判回数は全5回(うち証人尋問2回)。供述経過についての取り調べがメイン。控訴審は公判が取り消されたり、審理と審理の間が長め。

・裁判官3名のうち2名が交代
初公判後に木口信之裁判長の退官。定年間近で異動の可能性は低いとみられる時期に依願退官。N再尋問の前にも左陪席の裁判官が交代。時期的に人事異動か「送り込み」かは分からない。心証がリセットされたか、退官や異動で裁判所の空気が変わり影響を与えたか。

・国会で日本版「司法取引」(協議・合意制度)を容認する改正刑訴法成立
2015年189回国会に改正案提出。1年かけて2016年5月に成立。政治的なロビイング活動が最も活発な時期。15年7月の参考人質疑で郷原弁護士が反対意見。質疑の中で美濃加茂市長事件にも触れられる。

さらに、本件に特異な事情

・一審の主任検事関口真美検事が控訴審にも出席(「関口リターン」)
N再尋問決定後、一審の関口検事が控訴審にも出席。Nが余計な証言をしないよう監視に来たか。さらに、証人尋問後はもう用事が済んだはずだが、その後の最終弁論、判決言渡期日にも計3回出席。所属は東京地検のまま。

・再尋問でNの「生の記憶」を確かめたいという裁判所の事前の要請が破られる
Nは自ら1審判決書の差し入れを要求してないというが、Nの刑は確定していて、弁護士の事務所は東京。接触を禁止された検察官からの働きかけがあったことが疑われる。


本来、事前の要請を破られた裁判所は恥をかかされた格好になるわけですが、「事前の要請を無視するとは完全に司法を侮辱している。けしからん。絶対に許さない。」となるのではなく、「こんなことまでして検察が全組織挙げて有罪をとりにきている。これ以上、迷惑をかけられない。司法取引の法改正もあったことだし、恩を売っておこう。」と政治的配慮を働かせた結果、あのような判決になったと思います。

供述が疑われる原因を作った張本人の関口検事が控訴審に出席したことも、通常は心証を悪くする裁判所をなめた態度ですが、それが検察は裁判所の言うことなど聞く気もない、全組織挙げてなりふり構わずかかってくるという態度に恐れをなして「検察ファッショ」の動きに迎合したのだと思います。

仮に意向を伝えるとすれば、最高検察庁→最高裁事務総局→担当裁判官、法務省出向検事→政権幹部→最高裁事務総局→担当裁判官というようなルートが考えられます。

なかなか裁判官に証拠が残る形での分かりやすい圧力は加えられないでしょうが、組織の予算や人事を通じて間接的に影響を与えることはあり得ます。判決に理由を付さねばならないと法律で決められている裁判所は、一転、裁判官の人事異動には理由を示さず、結果として裁判官の過剰な忖度を生んでいます。

そこで司法権力の定量的研究が必要となってきます。この分野では政治学・行政学が専門の西川伸一教授と新藤宗幸教授の研究が代表的です。

西川伸一『裁判官幹部人事の研究 「経歴的資源」を手がかりとして』五月書房2010年

新藤宗幸『司法官僚 裁判所の権力者たち』岩波新書2009年

ここで研究をちゃんと紹介することはできませんが、最高裁事務総局という司法行政に属する「裁判しない裁判官」が全国3700人の裁判官人事を一手に握っています。人事以外では、裁判官会同という勉強会を主宰して、判例解釈の統一という形で統制を図っています。

以上はまだ裁判官が忖度したという好意的な見方で、積極的な悪意があった可能性も捨てきれません。木口信之元裁判官は年齢的にもう異動がないとみられるのに、退官してしまいました。後任の村山浩昭裁判官は、あと1回か2回程度です。身内に公務員がいないので、序列とか席次のこだわりは分かりませんが、ひょっとするとその程度のことでと思うような事が動機になっている可能性もあります。裁判官は、退官後は評議の秘密は負わないし、罰則もないので、もし聞く機会が巡ってくれば聞いてみたいと思います。

今回の控訴審判決を何回読んでも、軟体動物のような背骨のない文章という印象を免れません。詳しい理由は次の記事で書きますが、担当した裁判官に一人ずつ「あなた自身が最も決定的だと判断した証拠は何ですか。」と説明を要求したら、おそらく挙げられないと思います。理由になってない理由で、認定に無理があるということです。

キング牧師の名言「最大の悲劇は、悪人の暴力ではなく、善人の沈黙である。」を心に、次の記事で判決を論評してみようと思います。

2016年11月28日月曜日

11月28日 控訴審 逆転有罪 不当判決

名古屋高裁刑事第2部は、1審名古屋地裁の無罪判決を破棄。有罪を宣告した。

N供述の信用性を肯定し、現金授受を認定。1審判決で否定されたNの知人H.Y、H.Tの証言を補強証拠とした。

一方、検察官の主張の一つ「N供述を離れて間接事実だけでも有罪を認定できる」との主張は否定した。

現金授受を否定した被告人本人供述、同席者Tの証言はN供述の信用性に影響しないとした。

裁判長裁判官 村山浩昭
右陪席裁判官 大村泰平
左陪席裁判官 赤松亨太

2016年7月29日金曜日

7月27日 控訴審第4回公判 最終弁論

検察側最終弁論

原判決は、N供述の内容を主観的に誤り、事実誤認している。検察官は、客観的に間接事実を積み上げ、現金授受を立証してきた。

通常では考えられない実証実験という形で自治体に導入を図ったこと、さらに選挙前の2013年4月頃、メールの頻度が増え、要求の度合いが高まり、感謝の言葉を述べるなど、賄賂を渡す十分な動機はあった。

10万円の第1授受、20万円の第2授受とも、絶妙のタイミングで銀行口座から現金を引き出しており、賄賂以外の別の用途に使うことは経験則上考えられない。

現場の飲食店の同席人数、口座の出入金記録、ETCの記録の照会は、いずれもN供述が基になって、その後の捜査で裏付けたものであり、事実関係に大きな相違はなく、捜査経過に不自然な点はない。

贈賄供述は自発的になされており、供述後の捜査で客観的証拠により裏付けられ、当審での取調べによっても、供述の真実性がより一層明らかになった。

原判決が、第1授受より、先に第2授受を自白した経緯が不自然とする点について、当時は同時に詐欺事件も取り調べており、2014年3月15日に第2授受、3月19日に第1授受を自白した経緯からすると、短期間で様々な事実を供述したことで、記憶が相前後することはやむを得ない。初対面の場所について誤解していたのも、犯罪と直接関係ない事実について間違えることはやむを得ないことである。経験則、論理則に照らしてN供述は信用できる。

Nの供述は自発的になされており、供述後の捜査でも客観的証拠により裏付けられ、間接事実とも符合し、供述の真実性がより一層明らかになっている。

弁護人は、当審でのN証言は一審の判決書をそのまま引用しただけだと検察官の主張を攻撃しているが、不当な決めつけであり、いたずらに猜疑心をかき立て、誹謗中傷するものである。たしかに、当審の証言は詳細については記憶が減退しているが、骨格については一貫しており、このような証人が記憶の通り証言していることは経験則上明らかである。

以上、原判決を破棄して適正な判決が下されることを求める。


弁護側最終弁論

原判決は、現金授受の唯一の直接証拠であるN供述の信用性を否定した。供述の動機として、N自身の詐欺等の余罪の処分を軽くするため、捜査機関に迎合した可能性があることを指摘している。

しかるに、検察官は当審において、肝心の直接証拠たるN供述の取調べには終始消極的であり、新たに提出したのは第一審段階でも提出可能だった間接証拠ばかりであった。

当審においてNを再び取り調べることについて、検察官は反対意見を述べていたが、第一審で関口検事と連日連夜入念な打ち合わせをしていたことを踏まえ、検察官との証人テストを禁止し、名古屋高裁が事前に尋問事項を書いた用紙のみを差し入れ、職権でNを証人尋問することに決定した。

しかし、前回の公判においてNに一審判決書の差し入れがあったことが明らかになり、Nはほぼ判決書の通りの証言を行い、裁判所の要請を台無しにした。現に判決書にない事項は「記憶にない」と答え、逆に判決書に書かれている事項については、第一審の証言から1年半も経過しているにもかかわらず、判決書中の文言まで一致するほど、より詳細になっているなど、判決書を熟読していなければ考えられない証言を行った。

第一審で証言していたT同席の有無、初対面の場所について、当審では「記憶になかった」と判決書を読んで証言を変更した箇所がある。こうした供述経過について、検察側は供述の変遷の理由を説得的に示していない。

当審での証言について、Nは「全く何も覚えていないのは困る」と準備したことを認めたが、Nから頼んでいないのに判決書まで差し入れてもらっており、偽証罪に問われる不安が存したことが推測できる。一審判決後、関口検事がNのもとを2、3回訪れ、その際、Nは「控訴を希望しない」と関口検事に述べたというが、その前に関口検事の方から「控訴したいので、もう一度証人尋問に協力して欲しい」というような要請をしたと考えるのが合理的である。

もし、控訴審でもう一度証人尋問に呼ばれれば、単に一審と同じ証言をしただけでは偽証とされるおそれがあり、そのために、どの点が判決で否定されたか、自身の供述が否定された理由を知りたいと思い、何としても判決書を手に入れる必要があった。Nが原審よりも判決書の方に合わせた証言をしたのは当審での審理の通りである。

さらに、当審での検察官の信じがたい発言についても指摘する。検察官は「マスコミ用の判決要旨の差し入れがあったのでしょう」と述べた。そもそも、判決要旨は、正確な報道のため、特別な便宜供与として裁判所がマスコミに配布するものであり、他の目的での使用は禁止されている。検察官の発言したように、マスコミからNの弁護士に流出した事実があったとすれば、看過しがたい重大な事実である。

検察官は、虚偽供述の3類型を挙げて、N供述はそのどれにもあたらないから信用できると主張するが、およそあり得ないケースを否定してみせて、あたかも信用ありそうに見せる手法であり、不自然、不合理なことに変わりはない。かえって、弁護人側が供述が虚偽である可能性を具体的に指摘しているが、これに対して、検察官は具体的に反論するのでなく、「弁護人の主張は証拠に基づかない憶測に過ぎない」とか、「経験則上明らか」と漠然と主張するのみで、完全に論理的に破綻している。

そもそも刑事裁判の立証責任は検察官にあり、まして弁護人は様々あり得る可能性の立証の義務まで負うものではないから、「弁護人の主張は憶測に過ぎない」と検察官が攻撃するのは、あたかも弁護人に立証責任があるかのように錯覚させるものである。

本件は、すべて虚構の供述に基づいて作られた事件である。すでに逮捕から2年、控訴から1年以上経過し、被告人とされた市長本人の受けた苦痛、不安を感じた市民への配慮が必要である。検察官は、控訴審でのNの証人尋問に反対の理由を述べる際、証人の不安への配慮を挙げていたが、自らの権限行使による社会的影響も考慮せず、いたずらに訴追に拘る様は、公益の代表者としての責務への自覚が足りないと言わざるを得ない。一審無罪判決後も、なおも詭弁を弄し、無実の者を罪に陥れようとする検察官に戦慄を覚えざるを得ない。

裁判所におかれては、控訴を速やかに棄却し、市長の名誉回復、市民の不安払拭が一刻も早くなされることを切望する。

2016年5月27日金曜日

5月23日 控訴審第3回公判 証人尋問

冒頭、左陪席肥田薫裁判官が赤松亨太裁判官に交代したため、村山浩昭裁判長の方から弁論の更新(刑事訴訟法315条本文)について意見がないか尋ねた。弁護人、検察官双方から異議がなかったため、そのまま公判が続行することになった。

証人尋問開始前、郷原信郎弁護人から、一審の担当検事であった関口真美検事が今日の控訴審の公判に立ち会っていることに関して抗議が出された。一審の公判で証人と連日多数回打ち合わせをしていた担当検事が立ち会うことは証人に強い心理的負担を与え、事前に検察側との接触を禁止し、裁判所主導によって証人尋問を実施した趣旨が損なわれるとして退席を求めた。

検察官は、法律で禁止されていないから立ち会うことに問題はないと反論。

裁判所は、中身で判断するとして、退席勧告まではしないと述べ、関口検事立ち会いのまま進められることになった。

証人N入廷。

村山浩昭裁判長「まず裁判所の方から。次に、検察官、弁護人と進めます。気分が悪くなったら言って下さい。」

裁判所尋問

大村泰平裁判官「事前に裁判所の方から尋問事項を記載した書面は読みましたか。」
N「読みました。」

大村裁判官「では、尋問事項に沿って進めていきます。時間の関係で割愛することもあります。証人の今の生活場所は?」
N「刑務所です。詐欺、公文書偽造、贈賄の罪で懲役4年の実刑判決を受けました。」

大村裁判官「この裁判で問題になっていることは分かっていますか。」
N「私が藤井さんにお金を渡したことです。1回目は平成25年4月頭に10万円。2回目は25日に20万円。」
大村裁判官「では、4月2日ガストでの10万円授受を第1授受。4月25日山家での20万円授受を第2授受と呼ぶことにします。」

大村裁判官「裁判所の方からあなたに送付した捜査段階の取調日時を記録した書面は読みましたか。」
N「読みました。」

大村裁判官「ほかに、控訴審の証人尋問が決定してから裁判所から送った書面以外のものを読んだことはありますか。」
N「あります。」
大村裁判官「どんな書面ですか。」
N「自分の供述調書と藤井さんの一審判決のコピーです。」
大村裁判官「供述調書はNさん自身の事件ですか。」
N「私の裁判での供述調書です。贈賄と詐欺の一部です。」
大村裁判官「書面は誰から送ってもらいましたか。」
N「4月中旬、私の一審の弁護人に頼んで送ってもらいました。」
大村裁判官「なぜ送ってもらおうと思ったのですか。」
N「家族から自分がまた証人尋問に呼ばれると報道されていると聞かされて、読んでおいた方がいいと思って弁護士に送ってもらうよう頼みました。」
大村裁判官「調書は読みましたか。」
N「調書は4月中旬、送ってもらいました。その後、4月20日に裁判所から召喚状が届きました。その後弁護士の先生と会って、そんなに調書は読まなくていいと注意され、ちょっと目を通しただけです。」

大村裁判官「初めて贈賄について供述したのはいつ頃ですか。」
N「平成26年の3月中旬です。」
大村裁判官「第1授受と第2授受どちらから供述したのですか。」
N「第2授受からです。」

大村裁判官「話し始めたきっかけは何ですか。」
N「詐欺事件で2回目の逮捕の時、取り調べ警部と互いの子供の話になりました。私も子供のことは大事に思っておりますので、うそつき父ちゃんと呼ばれたらいかんなと泣いてしまって、賄賂のことを話そうと思いました。」
大村裁判官「他にも、取り調べ中に、泣いたことはありますか。」
N「あります。涙もろくなってたんで、だいたいそういう子供のこととかで泣いたことがあります。」

大村裁判官「贈賄供述以前に藤井さんのことを話したことはありますか。」
N「あります。藤井さんには感謝していたので、事業のこととか話したことがありました。」

大村裁判官「3月中旬まで贈賄のことは話そうと思わなかったのですか。」
N「思いませんでした。全くなかったわけではないですが、少し迷ったくらいです。」

大村裁判官「藤井さんにお金を渡したと供述した時以外でも泣いたことはありますか。」
N「ありました。」
大村裁判官「他の罪について供述している時に泣いたのですか。」
N「それはなかったです。」
大村裁判官「どうして、藤井さんの時だけ泣いたのですか。」
N「それは分かりません。」

大村裁判官「3月中旬に第2授受のことを供述した時には第1授受のことは頭にありましたか。」
N「漠然と渡した記憶があっただけではっきりしていませんでした。」
大村裁判官「どういう経緯で第1授受を思い出しましたか。」
N「第2授受の20万円をいつどこで渡したと話してから1,2日後、第1授受のことを思い出しました。他の議員にも渡したと話した後、そうだ藤井さんにも10万円渡したと第1授受のことを話しました。」

大村裁判官「第1授受を思い出したきっかけは、記憶喚起の資料やメールを見てからですか。」
N「その頃は見ていません。メールや資料を見る前に第1授受のことを思い出していました。」

大村裁判官「第1授受の最初の供述ではTさんはいないことになっていますが、この時の記憶はどうだったのですか。」
N「その時はTさんは本当にいなかったと思っていました。」
大村裁判官「警察官の方からTさんの同席について聞いてきましたか。」
N「私が詐欺で逮捕されてからずっと日夜取り調べで、もうその頃は、不適切な言い方かもしれませんが、ゆるい雑談の感じでガンガン聞いてくる感じではなかったです。雑談の延長で、Tさんがいたかは分かりませんとだけ答えました。」

大村裁判官「Tさん同席を思い出したのは。」
N「4月上旬です。記憶喚起の資料や報道などで思い出しました。」
大村裁判官「記憶喚起の資料とは。」
N「クレジットカードの明細です。私の署名を見てTさんがいたことが確定しました。」
大村裁判官「明細を見る前にはTさんのことは思い出していなかったのですか。」
N「明細を見る前から、Tさんはいたかもしれないとは思っていました。明細を見たのは4月中旬です。」
大村裁判官「警察の方から見せられたのですか。」
N「私の方から警部にお願いして持ってきてもらいました。」

大村裁判官「ガストで渡した封筒に入れた資料の内容は覚えていますか。」
N「今は覚えています。中学校の図面と赤ペンの書き込みのある資料です。」
大村裁判官「第1授受の取り調べの時は。」
N「その時は頭にありませんでした。数日前の契約書と同じものだと思っていました。警部から見せられて資料があったことを思い出しました。」

大村裁判官「第2授受について、原資はどうやって調達しましたか。」
N「イオ信用組合から不正融資を受けた中から20万円を支出しました。」
大村裁判官「なぜ20万円という金額にしたのですか。」
N「以前10万円渡したので、その倍の20万円を渡そうかなと思いました。」

大村裁判官「捜査段階の供述ではH・Yから50万円借りて原資にあてたと言ったのは間違いですか。」
N「間違いとは思っていません。不正融資の中から出しましたが、借りたおかげで資金繰りが楽になり、20万円出すことができました。」
大村裁判官「借りた50万円はどうしましたか。」
N「電話の翌26日に受け取りに行き、某社の口座の支払いに充てました。」

大村裁判官「藤井さんと初対面の場所は取り調べ当初はどう答えていましたか。」
N「3月22日JR名古屋高島屋の華川が初対面と思っていました。この時、藤井さんが千円出した記憶がありましたので。」
大村裁判官「それ以前に会ったという記憶は。」
N「記憶喚起の中で3月頭に木曽路錦店でもTさんと3人で会っていたことを思い出しました。日時はクレジットカードのレシートで思い出しました。」

大村裁判官「藤井さんの一審判決の結果は知っていますか。」
N「無罪になったということは知っています。」
大村裁判官「Nさんの証言はどう判断されたか知っていますか。」
N「知っています。そうだったんだと。特に大した気持ちはありませんでした。」

大村裁判官「一審判決後、捜査機関、警察や検察の人間と会いましたか。」
N「会いました。判決後、3月19日に私が刑務所に移送される前に拘置所で2,3回。」
大村裁判官「誰と会ったのですか。」
N「関口検事と事務官です。こういう結果になったと報告がありました。でも、新聞で結果は知っていました。」
大村裁判官「何のために来たと思いますか。」
N「特に何のためとかは言ってませんでした。関口検事は悔しいと話していました。」
大村裁判官「あなたはどう思ったのですか。」
N「私は悔しくありませんでした。控訴して欲しくないと伝えました。」
大村裁判官「刑務所に移送後も捜査機関の人間が会いに来ましたか。」
N「移送後はありませんでした。」


検察官尋問
公判立会検察官は3名。名前が分からなかったので、裁判官に近い一番奥の席に座っていた背広を脱いでワイシャツを着ていた検事を白シャツ検事、一番手前の傍聴席に近い方の検事を背広検事と便宜上呼びます。真ん中の席が関口検事。

白シャツ検事「藤井さんへの第2授受を自白した時だけ泣いたのですか。」
N「違います。詳細は覚えていませんが、賄賂の自白をする前に、子供の話をして泣いたことがあります。」
白シャツ検事「他の議員についての話は。」
N「藤井さんの第2授受を話した2日後、他の議員についても話しました。お金でなく接待をしたことを話しました。」
白シャツ検事「贈賄の供述は第2授受が最初でしたか。」
N「そうです。」

白シャツ検事「先ほど、不適切な表現かも知れないが、ゆるい取り調べだったという発言があったが、この時はいい加減な気持ちで供述したということか。」
N「そうではないです。私は記憶の通り話しました。」

白シャツ検事「H・YさんとTさんは知り合いですか。」
N「Tさんを私に紹介したのがH・Yさんです。」
白シャツ検事「H・Yさん経由でTさんに現金授受のことが知られてしまうと思いませんでしたか。」
N「そんなにTさんとH・Yさんは会っていないので、そんなに心配はしていませんでした。」

白シャツ検事「判決後に、控訴しないで欲しいと言ったのは、自分がいい加減な証言をしたからですか。」
N「そうではなく、藤井さん以外にも他の議員のこととか、横領とかあったので、もう証人に呼ばれたり、打ち合わせもしたくないなと思っていました。自分の刑が確定しているので、自分の刑を粛々と全うしたいと思っていました。」


弁護人尋問

郷原弁護人「先ほどの尋問で、正式に召喚状が来る前にこの証人尋問の予定を家族に教えてもらったと言いましたが、家族とは誰ですか。」
N「身内です。」
郷原弁護人「どういう関係ですか。奥さんとか兄弟とか。」
N「家族は家族です。どういう位置にいるとかは答えたくありません。」
白シャツ検事「異議。関連性がありません。」
郷原弁護人「どうして知ったのかを確かめるために質問しています。先ほど新聞でという発言もありました。」

郷原弁護人「本当に証人尋問があるか疑問に思いませんでしたか。」
N「疑問はありました。正式に召喚状が来ないと確定しないと。」
郷原弁護人「自分から確かめようとしましたか。」
N「私の一審の弁護士に確かめてもらおうと頼みました。資料は刑務所より法律事務所の方に送ってもらった方がいいと思いました。」
郷原弁護人「なぜ資料を見ようと思ったのですか。」
N「1年間刑務所に服役していたので、資料を見て思いだそうと。」
郷原弁護人「弁護士から注意を受けましたか。」
N「弁護士から、読まなくていい、今の記憶だけでいいと言われました。言われてからはそんなに読んでません。」
郷原弁護人「最初から調書の内容と関係なく、自分の記憶だけで証言したらいいと思いませんでしたか。」
N「そう思いませんでした。」

郷原弁護人「送ってもらった資料を最後に読んだ日はいつですか。」
N「関係あるんですか。最後に見たのは先週木曜日です。」
郷原弁護人「弁護士に会ってからの期間はどれくらいありましたか。」
N「2週間くらいです。」

郷原弁護人「逮捕後の取り調べを最初はガンガンやってたというのは、何の内容についてですか。」
N「詐欺事件の方です。否認はしていません。あれはどうだこうだと細かく詰めていた。」
郷原弁護人「あとは、ゆるい取り調べだったというのは、何の内容でしたか。」
N「贈賄についてです。藤井さんだけでなく、他の議員のことも雑談レベルで話していました。」

郷原弁護人「また証人尋問に呼ばれることに不安はありましたか。」
N「不安はありませんでした。」
郷原弁護人「第1授受の10万円は他の議員に渡した額と同じということで思い出したのですか。」
N「はい。」
郷原弁護人「メールの文面を見て思い出したのではないですか。」
N「メールを見たからではありません。」
郷原弁護人「あなたが捜査段階で検察官に語った内容では、メールを見てから話し始めたとあるが。」
N「思い出せません。」
郷原弁護人「今のは一審の証言と同じ内容だが。」
N「そうだったかは覚えていないが、私の記憶通りです。」

郷原弁護人「第1授受はガストの駐車場で車から降りた場面から思い出したのではなかったか。」
N「はっきりと覚えていません。」

郷原弁護人「人数が2人から3人と判明した経緯は覚えているか。」
N「覚えています。」
関口検事「異議。いつの調書か。」
N「最初、自分、Tさん、藤井さんの3人か、Tさん、藤井さん、仲介者の3人だったか、よく分からなかった。クレジットの署名で自分もいたことが判明した。」

郷原弁護人「一審の証人尋問の打ち合わせはどれくらいやりましたか。」
N「毎日、朝から。どれくらいかは覚えていない。検事の質問に私が答える形でやりました。」
郷原弁護人「弁護人の反対尋問への想定問答は。」
N「そういうことは記憶にない。取り調べじゃないので、全部しゃべるのでなく、聞かれたことに答えればいいと。」

郷原弁護人「藤井さんの一審判決書のコピーをどうやって弁護士に送ってもらいましたか。」
N「私は弁護士に資料を送って欲しいと言っただけです。判決書とは言っていません。」
郷原弁護人「あくまで当事者でないNさんの弁護人には藤井さんの判決書は、郵送されて来ませんが、どうして入手できたのか。」
白シャツ検事「マスコミ用の判決要旨のことだと思われますが。」
村山裁判長「どれくらいの大きさや分量でしたか。」
N「A4で100ページくらいありました。」

郷原弁護人「1審判決後、関口検事と会ったのは2回か、3回のどちらか。」
N「2回か3回かは分かりませんが、1回ではありませんでした。」
郷原弁護人「2回目はどんな話をしたのか。」
N「受刑生活を粛々と送っていきたいと話しました。」

郷原弁護人「一審と違う証言をしたら、偽証罪に問われるという不安はなかったか。」
背広検事「異議。質問でなく意見です。」
村山裁判長「最後まで聞きましょう。」
N「そこまで考えていません。全く何もかも覚えていないと困ると思っていました。弁護士にも偽証罪になるかどうかは相談していません。」

神谷明文弁護人「Tさんには現金授受のことを知られたくないと思っていたのですよね。」
N「はい。」
神谷弁護人「あなたが藤井さんと2人で会う機会は作れましたか。」
N「できました。」
神谷弁護人「2人で会おうと言ったことはありましたか。」
N「2人で会おうというようなことは言いませんでした。」

補充尋問

大村裁判官「中学校に浄水プラントを設置した現場でH・Tと交わした会話は当初から覚えていたのですか。」
N「贈賄自白をする前には、H・Tのことは記憶にもなかった。贈賄で逮捕後、H・Tと現場に行ったことないかと聞かれて、会話を思い出しました。」

大村裁判官「水源の売り上げはいくらでしたか。」
N「売り上げという売り上げはありませんでした。不正融資が収入でした。」
大村裁判官「レンタル契約の実績はありましたか。」
N「ありません。」

白シャツ検事「契約とは別にどこかに設置したことはありましたか。」
N「レンタル契約はなかったが、介護施設に設置したことはあります。」

郷原弁護人「介護施設に設置した時の売り上げは。」
N「ゼロでした。」

郷原弁護人「H・Tさんがあなたに、「お前、よくこんなのつけれたね。」と言ったのは、市長と仲が良いからという意味で言ったのか。」
N「ちょっとよく分かりません。自治体に設置できるのはすごいということではないか。」
郷原弁護人「H・Tさんは市から発注があったと思い込んでいたのか、実際は実証実験で売り上げにはならないことを知っていたのか。」
N「実証実験だということは話していません。ただ、看板には社会実験と書いていました。」

郷原弁護人「浄水プラントの設置現場に金融関係者はいましたか。」
N「イオ信用組合と十六銀行の担当者です。」

郷原弁護人「他の自治体職員はいましたか。」
N「幸田町と名古屋市の職員が来ていました。美濃加茂市には視察が来ることを事前報告していました。」

郷原弁護人「金融関係者が来た目的は。」
N「銀行が水源の事業を見せてくれと浄水プラントの設置現場を見に来ました。」
郷原弁護人「中学校のプラント設置以外でも融資の案件を取り付けられましたか。」
村山裁判長「その先は詐欺に入ってくるので。」
郷原弁護人「では、撤回します。」

白シャツ検事「契約までいかなくても、営業は何件くらいかけましたか。」
N「案内だけなら300件くらいです。」
白シャツ検事「契約寸前までいった件数はありましたか。」
N「数件ありました。」

村山裁判長「水源の売り上げがゼロだった期間はどれくらいですか。
N「5年間です。」
村山裁判長「立ち上げ時からずっとということですか。」
N「そうです。」

傍聴雑感
一審の時とほぼ同じ証言でした。家族の誰から証人尋問の予定を教えてもらったのかを聞かれた時以外は、興奮せず、淡々と証言していました。

たぶん、もう証拠調べはないので、3点だけ、気になった点の考察を書いておこうと思います。

東京地検に異動していた関口真美検事
一審の公判で主任検事だった関口真美検事が2016年4月1日付で東京地検に異動していました。(2016.4.1(1)付 法務省人事 Westlawjapan)

一審の公判担当検事4名は全員名古屋地検から異動していました。一見しただけでは「左遷」かどうかは分かりません。

武井聡士検事 名古屋地検(2014.4.1)→長崎地検(2016.4.1(1)付 法務省人事 Westlawjapan)
早川充検事 名古屋地検(2013.4.1)→東京法務局訟務部付(2015.4.1(4)付 法務省人事 Westlawjapan)
伊藤孝検事 名古屋地検(2013.4.1)→熊本地検(2015.4.1(3)付 法務省人事 Westlawjapan)

・除斥、忌避、回避の制度
前審に関与した裁判官、当事者の一方として関与した裁判官は、除斥、忌避の対象となります。公平を期しがたい者をあらかじめ除外して、三審制の趣旨を損なわないようにするためです(刑事訴訟法20条、21条)。除斥、忌避事由に該当すると断定までできなくても、疑わしい場合は、裁判官の方で、司法に対する一般の国民の信頼、いわゆる「公平らしさ」を守るために自主的に回避するのが望ましいとされます(刑事訴訟規則13条)。

もっとも、検察官にはそのような制度はないので、一審の主任担当検事だった関口検事が控訴審の公判に立ち会っていても、ただちに違法とはいえないでしょうが、関口検事の立ち会いを許可した検察幹部は、検察官には裁判官ほどの「公平らしさ」は必要ないと判断したということでしょう。

・弁護人の抗議の意味
証人が圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあるときは、相手から見えないよう衝立の遮蔽やビデオリンク方式で尋問を行うことができます(刑事訴訟法157条の3・157条の4民事訴訟法203条の3・204条2号)。暴力団事件や性犯罪事件などを想定して作られた制度ですが、実際は暴力団と無関係な傷害事件などでも活用されています。

一審では、関口検事が証人Nに対して連日6,7時間打ち合わせを行い、弁護人に供述調書そのままと評される証言を行いました。傍聴席からも見えていましたが、関口検事は証人尋問開始直前にも、証人Nに対して耳打ちをしていました。

このような、入試直前の有名進学塾でもそこまで長時間の受験生の指導はしないくらいの、連日連夜の打ち合わせをした当人の面前で、同じ人物が同じ質問をすればテストに「合格」するのは不思議ではないでしょう。そうすると、元々の自己の記憶でなく、他人に刷り込まれた記憶を語ることになり、証人尋問の意義が失われてしまいます。証人の心理的圧迫を回避するため、上記規定を類推適用して遮蔽措置や当該検事を退席させることは、特に不当な措置ともいえないでしょう。刑罰を拡張する方向での類推解釈は禁止されますが、被告人に有利な類推解釈は禁止されていません。

ましてや、今回の証人尋問は裁判所が職権で証人を呼び出し、証人の「生の記憶」を確かめるため、検察官との事前の打ち合わせを禁止しています。その趣旨を潜脱するかのように、同じ検事を控訴審の公判に参加させる神経に唖然としました。アメリカなら法廷侮辱罪ものでしょう。

・関口検事が来た目的
関口真美検事がいくら一審の主任検事だったとはいえ、名古屋高裁の控訴審にも出席するのは妙です。というか、一審で敗訴した担当検事が恥の上塗りのように控訴審でも出てくるなど聞いたことがありません。まして今年4月1日に東京地検に異動したはずが、名古屋高検が担当する公判に出席するには、どんな辞令をもらったら可能になるのか謎です。いくら思い入れが強くても勝手に東京を離れて職場放棄はできないし、受け入れる名古屋高検の検事長の許可も必要で、結局、両者の上級庁である最高検察庁の大野恒太郎検事総長の了承の下、関口検事が派遣されてきたことになります。

この公判に関口検事が来た目的を考えると、証人が「変なこと」を言い出さないか監視しに来たと見るのが妥当でしょう。予想外の証人尋問の決定で、途中から担当することになった名古屋高検所属の検事より、長時間の打ち合わせで証人Nの「弱点」も知り尽くしている関口検事を立ち会いさせた方が効果的と判断したのでしょう。一審と同じ質問をしなくても、異議でヒントを出すことで反対尋問を潰すこともできます。

一審判決後、関口検事がNのもとを訪れ、「悔しい」と言ったというのは、たぶんウソでしょう。いくら証人テストで長時間過ごしたとはいえ、一方は刑が確定して収監予定の元被告人、もう一方は司法試験に合格した現役の検事です。身内でもないただの一般人に本音を吐露するのはプライドが許さないでしょう。上級庁からの組織的命令ではなく、関口検事の個人的思い入れが動機とカモフラージュするための言い訳だと思います。

では、関口検事が2,3回Nのもとを訪れた目的は何かというと、自分の刑が確定したからといって、安易に週刊誌にセンテンススプリングしないよう釘を刺しに来たのだと思います。余罪の追及や家族や関係者へガサ入れの警告、偽証罪の警告もあったかもしれません。でなければ、もう判決が確定した被告人にわざわざ会いに来ません。


判決書のコピーを入手した経路
証人尋問の予定を「家族から教えられた」とNが言ったのは完全に嘘だと思います。

高裁が職権で最重要証人を尋問へ~美濃加茂市長の事件で異例の展開

証人尋問の情報は、江川紹子のヤフーニュース記事が初出で2月24日配信。アメリカの刑務所ではネットも通じるらしいですが、日本の刑事施設では自費で購入した新聞、雑誌か、テレビだけです。他のネットニュースや新聞、テレビは報道してなかったと思います。一時ヤフーのトップで多くの目に触れたと思いますが、関心がある人でないとクリックして最後まで読まないと思います。もしそれだけ関心のある家族なら、裁判を見に来ているだろうし、情状証人にも出ているはずです。

藤井さんの一審無罪の判決書は公刊されていないと思いましたが、実は裁判所のデータベースにひっそり上がっていたようです。

http://kanz.jp/hanrei/detail/85026/
↑のサイトは、無料で見れますが、検索性に乏しく、存在を知ってる人はあまりいないと思います。PDFで97ページありますが、匿名化してあるため、検索サイトにほとんどひっかかりません。法律に関心がある人でも探すのは楽ではないので、一般人が見つけるのはまず無理でしょう。

ちなみに、PDFの55ページまでは当事者の主張の要約で、その下からが裁判所が無罪と判断した理由です。

仕事や研究では、有料のTKCのLEX/DBインターネットを利用している人がほとんどだと思いますが、こちらは印刷の設定でページ数が変わります。

名古屋高検の白シャツ検事は「マスコミ用の判決要旨では」とフォローしようとして、逆に墓穴を掘ってしまいましたが、各当事者間で認識に齟齬があるのかもしれません。少なくとも判決書の原本のコピーか、匿名化したPDFの印刷のどちらかの可能性があります。

自分の知る限り、マスコミ用の判決要旨というのは、裁判所から記者クラブ用に配布するもので、A4でせいぜい2,3枚程度です。あくまで裁判所が「便宜供与」として任意に配るものなので、判決要旨を作らないこともありますし、マスコミに要求する法的権利はありません。中には、判決宣告の前にフライングで判決要旨を配った例もあるようです。一審無罪判決の宣告時はどの記者も真剣にメモを取って、急いで編集部に報告していたようなので、少なくとも事前に判決要旨を配ったりはしてなかったようです。

もし原本なら、当事者の弁護団か、検察官しか入手できません。詐欺の追加告発について、名古屋地検での協議の状況をNの弁護人に教えていたという前例があるなら、判決書のコピーを渡すくらいはずっと簡単なことだと思います。

一審でNが再尋問される前の2014年11月11日、Nは保釈され、自身の判決が出る2015年1月16日までの約2か月間だけ、社会に復帰します。実刑必至の被告人をこのタイミングで保釈させるのは「逃走援助」と言われてもおかしくないくらいあり得ないことです。4億円でなく、400億円の詐欺なら確実に逃げられていたでしょう。これまで逃亡して没取された保釈金の最高額は韓国に逃げたイトマン事件の6億円です。Nはこの2か月の間に、4年間の財産管理を手配していたのだと思います。

とりあえず、家庭用プリンターでA4普通紙を97枚プリントアウトしようとしたら、インクカートリッジの交換を要求されることは間違いないでしょう。


うそ泣きを見抜くコツ
少し前に自称イクメン議員の謝罪会見について、日大芸術学部パフォーマンス学の佐藤綾子教授が興味深いコメントをしていました。宮崎議員の去就はどうでもいいですが、コメントの内容は日常生活でも応用できそうだと思いました。残念ながら元記事のスポーツニッポンの記事はリンク切れしています。


会見ラストに眉間にしわを寄せて涙目になったのも気になった。「ギュッと目を閉じたのですが、その時に水滴が出ていない。 人間は感情が先にあふれて動作となるのですが彼は逆。作為の可能性が高いと感じました」

宮崎議員会見 誠意ほど遠く おじぎ14回「オーバー」涙目「作為の可能性」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160213-00000083-spnannex-ent スポニチアネックス 2月13日(土)9時0分配信 リンク切れ(2016年5月26日)

1審の証人尋問初日にNが泣きながら自白のきっかけを話した場面がありましたが、話し出す前にうつむいて1分間くらい沈黙していた時間があったと思います。もっとも、傍聴席からは背中しか見えないし、うつむいていたので正確な表情は分かりません。

アメリカの裁判所は法廷での証言中もカメラで記録するようなので、しゃべっている時の表情も事後的な検証が可能です。

「ああ、なんてこった」裁判所で被告人が号泣 その理由は?(動画)

Nが家族のことを話すと泣き出したというのは、自白に迫真性を持たせるための演技の気がします。言う割には話しぶりが適当で、こう言っておけば世間の一般人は納得するし、それ以上追及してこないだろうという計算の元、話しながらもっともらしい理由を探していたのだと思います。

24時間テレビとか家族の絆大好き人間にはお涙頂戴のストーリーになるのかもしれませんが、「親戚は金を無心するもの」くらいにしか思っていない筆者のような薄情な人間は特に何とも思いません。実際に取り調べ中に泣いたのかもしれませんが、「妻も逮捕するぞ」とか「子供が学校でいじめられてもいいのか」と安否を憂慮する者への脅迫や侮辱を受けて泣いたのかもしれません。全部可視化された記録がないので、本当のことは分かりません。

2016年5月10日火曜日

報道の問題点

美濃加茂市長冤罪事件の報道を振り返って、どのような問題があったか考えていきたいと思います。といっても、図書館で過去分を確認できた朝日新聞と中日新聞の報道が中心になります。

まず、自宅で購読していた朝日新聞の紙面を振り返ってみたいと思います。

朝日新聞
・逮捕から初公判まで
他紙と同じように愛知県警リークによる有罪視報道。

・第2回公判以降
被告人質問(10月24日)後にまとめ記事。同席者の否定証言などが影響したか、論調に変化。記者の心証が無罪説に傾いた印象。

・判決前後
判決前日に「あす判決」とまとめ記事(32面)。3月5日判決当日の朝刊にも、まとめ記事(岐阜県版27面)。愛知県版には掲載なし。

・3月6日判決翌日
1面トップ。社会面36,37面に詳報。岐阜県版33面に市長本人手記。ウェブ版にも。


中日新聞
・逮捕直後
6月25日朝刊1面トップ。連日にわたって報道。分量が一番多いが、有罪決めつけ報道。

・第2回公判以降
贈賄側知人証言を報道。他紙はスルーしていた。
被告人質問後にまとめ記事。相変わらず、有罪断定。ただし、公判経過に自信が揺らいだのか、近藤社会部長の署名で「あいまいな供述はよくない。可視化が重要。」とやや検察に責任転嫁?

・判決翌日
1面トップ。無罪判決が意外だったらしく、「寝耳に水」のコメント。まとめの表に検察の論告引き写し。証拠価値の低い贈賄側知人証言やメールを過大視。

中日新聞を購読していた岐阜市の知人に事件の感想を聞いたら、判決までは「たぶん有罪だろうなと思っていた。」と話していたので、わりと一般的な印象だと思います。中日新聞がなぜここまで有罪視報道になったかの原因を考察したいと思いますが、その前にこの話題に触れたいと思います。

ランキングの順位には興味ありませんが、自由度が下がった理由として挙げられていることは従前から言われていたことで指摘は当たっていると思います。日本の特徴として、記者に物理的暴力こそ振るわないけれども、記者ないし会社の方から、権力や大手企業に媚びに行ってることが大きいと思います。
新聞学科やメディア学部の専門の人からは、↑上記のような各紙の表現の精緻な比較研究も重要な意義を有すると思いますが、もともと自分は日本のメディアに対する期待値が低いので、いちいち朝日新聞は何点とかランク付けしません。24点は12点の2倍ですが、合格点の60点にははるかに及びません。

 以下、自分なりの切り口で問題を見ていきたいと思います。

権力分立の原理と「第四の権力」
メディアは、立法、行政、司法の三権に次いで「第四の権力」と呼ばれます。権力相互間の抑制・均衡によって、権力の暴走を防ぎ、人権を保障する立憲主義の思想と親和性がある考え方です。立憲主義は1789年のフランス人権宣言の16条に端的に示され、人権保障と権力分立の原理を基本としています。 権力分立は、三権分立より広い意味で、公安委員会や原子力規制委員会、警察と検察官など、行政部門の中でさらに抑制・均衡の原理を機能させるものも含みます。

このような原理を前提として、日本国憲法13条は「すべて国民は個人として尊重される。生命、 自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と個人主義と幸福追求権を定めています。個人主義とは一方において、の犠牲において自己の利益を主張しようとする利己主義に反対し、他方において、「全体」のためと称して個人を犠牲にしようとする全体主義を否認し、すべての人間を自主的な人格として平等に尊重しようとする(宮澤俊義『全訂日本国憲法』日本評論社)ものです。幸福の権利や幸福実現権ではなく、幸福追求権となっているのは、幸福の概念は各人によって異なり、個人の自由な意思決定を公権力が妨害しないという消極的自由の性格を有するからです。国家目標として「幸福」の形を定めて個人に強制することは全体主義的統制として否定されます。

「公共の福祉」は人権相互の衝突による内在的制約とか、他者を害しない範囲の自由と解されます。「立法その他」は、立法、行政、司法の三権です。できるだけ国民の利益の侵害が少ない手段を採用する比例原則、刑罰の謙抑主義が導かれます(平川宗信『刑事法の基礎』有斐閣160-168頁に謙抑主義を詳述)。場合によっては、検察官は「公益の代表者」(検察庁法4条)として無罪の論告を行うこともあります。

権力の癒着と村八分社会
もっとも、上記の原理も、権力が暴走の危機にある時に現れてくるものです。常に対立しているわけではありません。権力機関が国民の権利を保障するという目的を忘れれば、容易に弱者の抑圧機構となります。権利を侵害されたまま、どこからも救済されなければ、文字通り、踏んだり蹴ったりになります。権利回復をあきらめて、泣き寝入りする人も少なくありません。

スズメバチ被害より多いと思われる冤罪と報道被害
自分の直接の知り合いでも2人冤罪に巻き込まれた人がいます。1人は誤認逮捕で取調中、真犯人が捕まって即日釈放されましたが、翌日、本人が自宅に配達された新聞紙面で自分の名前を発見しました。明らかな誤りですが、本人から訂正されたとは聞いていません。事件的にもベタ記事程度の内容でしたが、それだからこそ、実名報道で速報する意義があったか疑問です。冤罪と実名報道の被害者はスズメバチに刺される人より多いのではないかと思います。

発表ジャーナリズムの利点と欠点
再審決定が出ると、たちまち不当捜査を指摘する報道が増えます。将来の教訓となる有意義な報道ですが、事後的な報道では、再審請求していた本人のためにはあまりなっていません。経済分野でいえば、景気が右肩上がりで安定していれば、一部の官庁や団体の情報を少しフライングで発表することで、大きな利益が得られます。ところが、社会が複雑化してくると、一部の情報だけでは、真相の把握が困難になります。そこで、取材先の多様化や情報の検証能力の向上で真実に近づく努力を図るべきですが、自信のなさから特定の専門家や権威への依存を深めてしまうと、ますます歪みが拡大していきます。

メディアは本当に「第四の権力」なのか ニューズウィーク日本版


役に立たない「客観報道」
たとえば、GDPなどの経済指標がマイナス1%だったとします。同時に、日銀総裁が「景気は下げ止まりつつある。」とコメントしたとします。そこで「GDPマイナス1% 景気下げ止まり傾向、日銀総裁」と見出しをつけたら、客観的な数字を書いているし、当事者のコメントをそのまま載せているだけで、何も偏向はありません。しかし、実態は単に日銀総裁の事実と願望を混同したプロパガンダを拡散しているだけです。公的な権威だからといって、根拠の薄い希望的観測をまともな意見として扱うことは有害ですらあります。読者が知りたいのは、GDPマイナス1%の意味と経済の動向であって、専門家のちゃんとした分析を、たとえ数日遅れでも載せるならば、読者にとってははるかに有意義でしょう。

以上、自分の意見を長々と書いてきましたが、あらためて中日新聞の報道の問題点を振り返りたいと思います。

・事実を見抜けない「総論賛成 各論反対」
中日新聞は、逮捕前日、1面に大阪地検証拠改竄事件に関して江川紹子インタビューを載せていました。全面可視化の話など極めて有意義なインタビューで読んで欲しいのですが、この後、週刊プレイボーイで江川紹子が記事を連発した展開を知っていると皮肉としか思えません。

・捜査側に操作されていた新聞記者
逮捕直後の記事をよく見ると、逮捕前に中日新聞記者が地元での聞き込みをしていたことが分かります。いちいち愛知県警に報告していたかは分かりませんが、記者の主観的意図はどうあれ、言葉は悪いですがやっていたことは客観的には「岡っ引き」にしか見えません。

・「スクープ」の思い込みが目を曇らせた
記事の情報量だけなら、中日新聞が一番分量も回数も多かったと思いますが、どう見ても犯罪と無関係なツイートの情報などもいっぱい載っていました。最初から「30万円」という金額の情報は載っていたので、慎重な判断も可能だったと思いますが、何かしら難癖をつけようと、とにかく地元の悪い評判を探すのに苦心していた跡がうかがえます。美濃加茂市の選挙を取材した記者もいたと思いますが、1,2年しか経っていないのに、現場の記者が抱く人物像と整合させるのは大変だったのではないでしょうか。もっとも、弁護するなら、初動で30万円なら、次は300万円くらいあるかもと推測するのは理解できます。しかし、あれだけ取材して出てこなかったなら、「なかった」と結論を変更するのが誠実な姿勢だと思います。

・確証バイアスと集団無責任
おそらく記者と付き合いの長い愛知県警の課長とかの「絶対有罪で間違いない。」という言葉を信じて取材を開始したのだと思いますが、反対の情報を見つけても無視して、有罪説以外の可能性に蓋をしてしまったのでしょう。取材陣を大量投入した上司にしても、命令した手前、引き返す勇気を持てなかったのだと思います。公判が進むにつれ、自信が揺らいだこともあったでしょうが、捜査官が「絶対間違いない。」と強調するので盲信してしまったのでしょう。実際には、根拠が薄いからこそやたら断言することがあります。孔子『論語』「巧言令色、鮮し仁。」とか『老子』「知る者は言わず、言う者は知らず。」とか、昔からぺらぺらしゃべるのは信用ならないという教訓です。

・取材費の無駄遣い
逮捕翌日の紙面にわざわざ自社ヘリから空撮した浄水器の写真が載っています。何の意義があるのでしょう。

・刑事手続をちゃんと理解している記者がいるか不安
贈賄側知人証言について、10月2日第3回公判の最後で鵜飼裁判長が「間接証拠としては扱いません。」と明言しているのに、判決後の記事でさも客観的な証拠として挙げていました。他紙はわりと常識的感覚でスルーしていたと思いますが、中日新聞社は名古屋地裁のすぐ近くで、常に10人から20人くらいの人員を投入していたのに、取材陣の中に一定レベルの刑事訴訟法に理解がある人物がいないというのは、今後も捜査側の言いなりになる危険性があります。


あとは、自分が一読者として新聞に求めることです。

・速報性はあまり求めてない
別に1日か数時間遅れても、気にしません。お金を払って良かったと思える読み応えのある記事が読みたいです。

・社説は読まない
ほとんど事実と根拠が示されてないので読みません。適当に良いことを言うなら誰でもできます。高校生以上には天声人語の書き写しより、硬い本を1か月で1冊読むように指導しています。

・ベタ記事は捨てる
ベタ記事を載せなかったことで、読者が困ることはありません。無意味な実名報道で傷口を広げたり、地域社会に亀裂を発生させるくらいなら、載せない方がマシです。他に集中して下さい。

・経営と編集の分離。利益相反防止。権力分立的要素を。
メディア不信の最たるものです。特に全国紙の政治部や広告局の横槍で自粛することがあると、本当につまらなくなったと感じます。

・手抜きの記事はすぐ分かる
コピペはすぐバレます。面倒なのでプレスリリースをそのまま載っけた方がマシです。中途半端にきれいに編集してしまうと、官庁や団体が都合良く責任逃れができてしまいます。スクープと捜査上の秘密を使い分けさせてはいけません。

・「ネットで話題」は無思想の表明
つい5年くらい前までは、「ネットは不確かな情報だらけ」と言っていたと思うのですが、この2年くらいで急にテレビメディアがYouTubeやツイッターのネタを露骨にパクるようになってきて、いよいよそこまで落ちたかと思いました。問題意識がないなら報道を名乗るのをやめるべきです。語尾を「いかがなものか。」で締めるのも同様で、現代文の答案なら0点にします。

・ポスト可視化、可視化実現のために「法と心理学」の知見活用を
イギリスではすでに30年前からすべての刑事事件の取り調べについて全部録音録画が義務づけられ、そのための尋問技術や虚偽自白を避ける知見が積み重ねられています(指宿信「取調べ—取り調べの科学化・可視化」藤田政博編著『法と心理学』法律文化社50-61頁)。可視化が実施されればこれまでとは異なる能力が必要となります。また確立された尋問技術は日常の場面でも応用可能なものです。また調書裁判の日本で特異な発展を遂げた供述分析の手法もいまだ有効です(浜田寿美男「供述分析—「渦中の視点」から描かれるもうひとつの心理学」同前92-106頁)。この分野では韓国、台湾に遅れています。

・事実に切り込まないのはコピペサイトと同レベル
朝日新聞を叩いて新聞離れに貢献した読売新聞(blogos)(マーティン・ファクラー『安倍政権にひれ伏す日本のメディア』双葉社70頁も同旨。)
朝日新聞は吉田調書報道を自主的に訂正したわけですが、同時期にネガティブキャンペーンをしかけた読売新聞が部数を大きく減らしています。この騒動が部数に反映されているとするなら、多くの読者は、消極的に報道しないことより、たとえ誤報があっても積極的に報道する姿勢の方を評価したことになります。特に原発問題では読売新聞に報道しない姿勢が顕著でした。

・アリバイの両論併記は不要
たとえば、銃乱射事件が起きた時に、銃規制の方法で議論になるならともかく、両論併記ということで「いつでも自衛できるようコンビニでも銃を買えるようにすべきだ。」と銃規制反対派の意見を平等に取り上げるのはおかしいと平均的な日本人なら感じるでしょう。それと同じくらい論外な主張については両論併記する必要はありません。そんなところまで公平中立な客観報道の形式を墨守する必要はありません。不掲載にした団体が抗議してきたら、「論外な主張に耳を貸すつもりはありません。どうぞ自己責任で自分のHPで主張して下さい。」と反論すれば良いだけです。(この点は、マーティン・ファクラー『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』双葉新書116頁、上杉隆『ジャーナリズム崩壊』幻冬舎新書36頁も同旨。)

・社会問題を掘り起こす調査報道・検証報道を
高校以下の教育は決められた範囲で100点を目指す「失敗しない能力」が求められますが、逆に、大学の研究はいわば「失敗をする能力」であり、失敗を恐れずに新たな問題を発見する知が求められます。特に人文社会系は人間自体が対象であり、社会の所与の価値に対して批判的な目を向けて、新たな価値を創造するものであって、100点満点はあり得ません(吉見俊哉『「文系学部廃止」の衝撃』集英社新書68頁)。大学に学問の自由が広く認められるのも、学生が単に教授の言いなりでなく、学説を批判的に検証する能力があるとみなしているからです。このブログも、ある程度、批判能力のある人向けに書いています。せっかく大学を出て、世界的に見れば大きな企業に就職したのなら、その能力を有効活用すべきです。

2016年5月1日日曜日

このブログを書いた理由

初公判の2014年9月17日、名古屋地裁の外で待機していたら中日新聞の記者に取材を受けました。自分の記憶する限り、次のようなコメントをしました。

「本人が一貫して否認している以上、信念があるのだろう。信念があるというのは、逮捕後の取調べにも屈せずに否認し続けたこと、大学を卒業後、東京や名古屋の大手企業の就職を選ばずに地元に戻ってきて、地元のために活動していることから、そう思った。去年のソニー美濃加茂工場閉鎖で打撃を受けている中で、あえて政治家に立候補する人物に信念がないはずがない。
収賄事件という話もよく聞くと、社会通念的にあり得ない。まず、30万円という金額がばかげている。地元に戻って活動したり、ボランティアをしていた人物が、わざわざ不正な金を欲しがる意味が分からない。
何よりも、愛知県警が「美濃加茂を焼け野原にしてやる」と恫喝したことは許し難い。岐阜人全体に対する侮辱だと思う。就任したばかりの若い市長への侮りもあろうが、田舎の自治体といっても法的には平等なのだから、公平に扱うべきだ。」

このやりとりの最中、中日の記者に「要するに、あなたは市長を信じているということですか?」と聞かれました。これには困りました。市長の藤井さんとは面識がなく、普段の人となりを知らないので、信じる信じないの問題ではないと思い、即答を避けました。しかし、記者がもう一度「市長を信じていますか?」と聞いてきたので、「まあ、信じているということになるんでしょう。」と答えました。

これで翌日の紙面への不採用が決定しました。自分なりに簡潔に事件について思うことをコメントしましたが、中日記者の2回の質問の意図が分かりかねたので、違和感が残りました。これがある意味、ブログ公開のきっかけとなったと思います。

ここからは法律論を離れて、完全に個人としての主観、岐阜人として感じたことを書いていこうと思います。コメントを取った中日の記者の方には身元が特定されてしまいますが、別に不利益を加えられることもないと思うので、自由に思ったことを書いていきたいと思います。

筆者は岐阜市民で、美濃加茂市に親戚や友人はいません。私は藤井さんと同年代の岐阜県出身者なので、勝手に親近感を持っていましたが、2014年の夏頃まで、関西方面に行ったり来たりしていたため、事件についての情報は公判が始まるまであまり把握していませんでした。なので、証人尋問は真剣勝負で臨みました。

裁判の傍聴経験は、法学部の学生時代に知人の事件を傍聴し、支援者だよりのようなものに2回寄稿。ほかに、ノートテイカーや講演会の録音の文字起こしの経験が数回ありますが、一般のメディアへの寄稿はありません。当初は、第2回公判の内容を10月8日以前にアップするつもりでいましたが、意外と打ち込みに手間取ったのと、いつものPCが使えず見取り図をワードで作成するという暴挙(図形→PDFで保存→画像で保存)で、2、3日遅れました。あとは字数制限のないブログを選ぶのに1日かかりました。

筆者個人がこの事件について最も言いたいことを一言で表すなら、真剣に頑張っている人達を侮辱したことは許せないということに尽きる、と思います。少しでも地元を良くしようと多くの市民が心を砕いているのに、強権で踏みにじったことは許せない。岐阜県民としてスルーされるのは慣れていますが、侮辱されて黙っているわけにはいかない、と思いました。

傍聴する中で、名古屋地検、愛知県警の地方に対する差別、若年者、転職者など社会的地位の不安定な者に対する見下した目線を感じていました。侮蔑的態度は、新聞、テレビなどのマスメディアからも程度の差はあれ、感じられました。

藤井さんが狙われた経緯について興味深い記事が無罪判決翌日の2015年3月6日付朝日新聞社会面37面(岐阜地域版)に載っていました(一部匿名で引用。紙面では実名。)。

事件の端緒は2013年秋、県警へ寄せられた情報提供だった。名古屋市議の一人が、N社長の浄水設備設置を積極的に働きかけている、との内容だった。捜査員は直感した。
「カネが絡むぞ」 
内偵を始めると、Nの会社は借金がかさみ、経営は自転車操業。金融機関から融資金をだまし取った疑いが浮上し、詐欺容疑で昨年2月に逮捕した。さらに捜査を進めると、押収資料から、浄水設備の設置をめぐり、藤井市長とやり取りしたメールが多数見つかった。
県警は、本格的に2人の行動や金の流れを調べ始めた。検察側もメールや市長の言動などを吟味し、贈収賄として立件に自信を見せ始めていた。ただ、「賄賂の額が少ない」と慎重な物言いもした。少額だと、授受の形跡が残りにくいうえ、市民に選ばれた首長を立件するには可罰性が乏しいと受け止められかねないからだ。
検察側は「認めない限り、逮捕状の請求は許さない」と県警に伝えた。県警は任意で聴取を始め、その供述次第で逮捕するかどうかを決めるはずだった。
しかし、思わぬ事態が生じた。昨年6月24日早朝、県警は藤井市長の任意同行を求め、県警本部で事情聴取を始めた。市長は取り調べの当初から完全否認。「長い一日になる」。県警幹部はそう踏んだが、昼過ぎになって藤井市長が「任意捜査ですし、帰ります」と捜査員に告げた。捜査当局は証拠隠滅の恐れがあると判断した。否認のまま逮捕状請求——。想定外の流れで逮捕に踏み切った結果、ほころびが生まれた。無罪判決の予兆は、すでにその時、芽生えていた。

筆者は当初、Nから押収したメールなどを奇貨として、名古屋地検が主導したと思っていました。そうではなく、仮にこの記事が正しいとすると、愛知県警の捜査員の「カネが絡むぞ」という直感がそのままエスカレートして事件化したという見方が正しいようです。一部雑誌では非常に有名になった主任検事の関口真美検事および武井聡士検事は2014年4月1日に名古屋地検に転任(2014.4.1(6)付法務省人事 Westlaw)してきたので、捜査の端緒はあくまで愛知県警が開始したことは確実なようです。

公判中、検察が名古屋市議に300万円云々した意味が謎でしたが、初動からの流れで言及しただけのようです。本件には余分なことだし、300万円は見逃して、30万円を立件するという説得力や公平性に欠ける主張だなあ、と思っていました。

仮に、立証の難易度などから、30万円の立件を決めたとしても、選択の過程で差別的な発想がはたらいていたと思わざるを得ません。同じ1期目の市議で、同じような浄水器設置の件。違うのは、年齢と自治体の規模。名古屋市議は減税日本所属の議員。藤井さんは美濃加茂市議選に無所属でトップ当選のち最年少市長に。ここで名古屋市議に手を付けると、テレビでおなじみの減税日本の河村たかしが出てきてうるさい、それよりは無名の岐阜の田舎の市長の方が与し易そうだ、ゆとり世代だし、ちょっと強く出れば簡単にへたれるだろう、しかも週刊新潮あたりが喜びそうな「最年少市長」の裏の顔というオマケつきだ、というようなことを考えながら、逮捕に突き進んだと思われます。

逮捕したら逮捕したで、いまさら「間違いでした」と言い出すわけにもいかず、騒ぎになってる以上、検事も起訴して有罪に持ち込まないわけにはいかず、どこかで供述はとれるだろうし、マスコミにリークして既成事実化すれば、多少しくじってもなんとかなるだろうと、安易に考えて暴走したのだろうと思います。

ところが、予定していた供述は得られず、無罪判決が下りました。連日の過酷な取り調べに屈しなかった人物が1人だけでなく、2人いたからです。3人中2人が否認していれば、客観的な証拠が重要となりますが、検察が基本的な現場検証も怠っていたことが明るみになるなど、無様な公判活動をさらけ出しました。

さらに予想外だったのは、逮捕後のまだ真相がはっきりしない段階で地元の市民を中心に支援の輪が広がったことです。マスメディアが軒並み有罪視報道一色の中で、身近に刑事事件を経験したこともないだろうに、早急に支援体制を整えた人達の苦労は相当なものだったと思います。とにかく長いものに巻かれろというような保守的な風土の岐阜県で、こうした動きが出てきたことは自分にとっても驚きでした。

冒頭の記者の質問に戻ると、よくあるステレオタイプの二元論で記事をまとめたがっていたのでしょうが、必ずしも紋切り型に収まるものばかりではなかったということです。

以上、つらつら書いてきましたが、このブログが何がしか社会の役に立つことを願って、記事を締めたいと思います。