一審判決が出たので、全体的な感想を書きたいと思います。
ちなみに、新聞等では贈賄者の氏名が報道されていますが、更生を期待するのと、犯罪者といえども逮捕されて十分に反論する機会を持たない人間への集団いじめに加担する趣味はないので、公人は実名、民間人は匿名の原則に従って、匿名としました。(「人権と報道」概論 Ⅲ 報道被害をなくすために)
受託収賄罪の成立には、現金授受とそれに対応する請託が必要ですが、本件では現金授受の有無が最大の争点となりました。
一審判決は、「現金授受の核心的部分について、臨場感に欠ける」として無罪としました。
公判を傍聴して、そう感じた部分は、すでに10月2日の第3回公判のN証人に対する弁護側反対尋問に現れていました。
裁判官による補充尋問で、鵜飼裁判長が質問した2点が決定的だったと思います。山家住吉店で2回目の授受時にテーブルの反対側に回り込んで隣の席に移動した理由と、受け取った時の藤井さんの表情について訊いた時に、それまで日時や金額について淡々と早口で答えていたNが、虚を突かれたように間が空き、調子が乱れていました。特にどうということはないのに、一瞬答えに悩む様子が垣間見えたことで、現金授受が架空の作りごとである可能性があるという心証が生まれた瞬間だったと思います。
あとは、その可能性の信憑性と虚偽の供述をする理由・動機を確認する作業だったと思います。
ちなみに、この点を指摘したメディアは管見の限り、紙媒体の新聞や電波のテレビではなかったと思います。ネット記事を含めれば、フリージャーナリストの関口威人さんがこの点に触れていました。
最終的に判決では、N自身の記憶に基づかずに虚偽の供述をした疑いがあるとし、その動機にまで踏み込んでいます。これは刑法169条に抵触する重大な問題です。宣誓をした証人が自己の記憶に反する事実を述べることは偽証罪にあたります。そのため、国会答弁では「記憶にございません。」がマジックワードとなっています。偽証罪の法定刑は3月以上10年以下の懲役です。
もっとも、多数回打ち合わせしていた検事とのヤミ取引の可能性については断定を避けました。裁判所は厳格に推定無罪の原則を適用したのだろうと思います。
しかし、全体としては弁護側の主張をほぼ全面的に認め、検察官の提出した証拠のほとんどを排斥しています。検察官がドヤ顔で出した客観的証拠と称するメールや銀行口座の記録の類いは「関連性なし」として採用されていません。これは刑事訴訟法学的には犯罪事実を認定する最小限度の証明力すらないという意味です。検察官の完敗です。
判決は刑事司法の当然の原則を守って、朗読に2時間半以上かかるほど、丁寧に事実を認定していたと評価できます。
鵜飼祐充裁判長と伊藤大介裁判官、武藤明子裁判官は、裁判のプロフェッショナルとして、非常によい仕事をしたと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿