証人尋問開始前、郷原信郎弁護人から、一審の担当検事であった関口真美検事が今日の控訴審の公判に立ち会っていることに関して抗議が出された。一審の公判で証人と連日多数回打ち合わせをしていた担当検事が立ち会うことは証人に強い心理的負担を与え、事前に検察側との接触を禁止し、裁判所主導によって証人尋問を実施した趣旨が損なわれるとして退席を求めた。
検察官は、法律で禁止されていないから立ち会うことに問題はないと反論。
裁判所は、中身で判断するとして、退席勧告まではしないと述べ、関口検事立ち会いのまま進められることになった。
証人N入廷。
村山浩昭裁判長「まず裁判所の方から。次に、検察官、弁護人と進めます。気分が悪くなったら言って下さい。」
裁判所尋問
大村泰平裁判官「事前に裁判所の方から尋問事項を記載した書面は読みましたか。」
N「読みました。」
大村裁判官「では、尋問事項に沿って進めていきます。時間の関係で割愛することもあります。証人の今の生活場所は?」
N「刑務所です。詐欺、公文書偽造、贈賄の罪で懲役4年の実刑判決を受けました。」
大村裁判官「この裁判で問題になっていることは分かっていますか。」
N「私が藤井さんにお金を渡したことです。1回目は平成25年4月頭に10万円。2回目は25日に20万円。」
大村裁判官「では、4月2日ガストでの10万円授受を第1授受。4月25日山家での20万円授受を第2授受と呼ぶことにします。」
大村裁判官「裁判所の方からあなたに送付した捜査段階の取調日時を記録した書面は読みましたか。」
N「読みました。」
大村裁判官「ほかに、控訴審の証人尋問が決定してから裁判所から送った書面以外のものを読んだことはありますか。」
N「あります。」
大村裁判官「どんな書面ですか。」
N「自分の供述調書と藤井さんの一審判決のコピーです。」
大村裁判官「供述調書はNさん自身の事件ですか。」
N「私の裁判での供述調書です。贈賄と詐欺の一部です。」
大村裁判官「書面は誰から送ってもらいましたか。」
N「4月中旬、私の一審の弁護人に頼んで送ってもらいました。」
大村裁判官「なぜ送ってもらおうと思ったのですか。」
N「家族から自分がまた証人尋問に呼ばれると報道されていると聞かされて、読んでおいた方がいいと思って弁護士に送ってもらうよう頼みました。」
大村裁判官「調書は読みましたか。」
N「調書は4月中旬、送ってもらいました。その後、4月20日に裁判所から召喚状が届きました。その後弁護士の先生と会って、そんなに調書は読まなくていいと注意され、ちょっと目を通しただけです。」
大村裁判官「初めて贈賄について供述したのはいつ頃ですか。」
N「平成26年の3月中旬です。」
大村裁判官「第1授受と第2授受どちらから供述したのですか。」
N「第2授受からです。」
大村裁判官「話し始めたきっかけは何ですか。」
N「詐欺事件で2回目の逮捕の時、取り調べ警部と互いの子供の話になりました。私も子供のことは大事に思っておりますので、うそつき父ちゃんと呼ばれたらいかんなと泣いてしまって、賄賂のことを話そうと思いました。」
大村裁判官「他にも、取り調べ中に、泣いたことはありますか。」
N「あります。涙もろくなってたんで、だいたいそういう子供のこととかで泣いたことがあります。」
大村裁判官「贈賄供述以前に藤井さんのことを話したことはありますか。」
N「あります。藤井さんには感謝していたので、事業のこととか話したことがありました。」
大村裁判官「3月中旬まで贈賄のことは話そうと思わなかったのですか。」
N「思いませんでした。全くなかったわけではないですが、少し迷ったくらいです。」
大村裁判官「藤井さんにお金を渡したと供述した時以外でも泣いたことはありますか。」
N「ありました。」
大村裁判官「他の罪について供述している時に泣いたのですか。」
N「それはなかったです。」
大村裁判官「どうして、藤井さんの時だけ泣いたのですか。」
N「それは分かりません。」
大村裁判官「3月中旬に第2授受のことを供述した時には第1授受のことは頭にありましたか。」
N「漠然と渡した記憶があっただけではっきりしていませんでした。」
大村裁判官「どういう経緯で第1授受を思い出しましたか。」
N「第2授受の20万円をいつどこで渡したと話してから1,2日後、第1授受のことを思い出しました。他の議員にも渡したと話した後、そうだ藤井さんにも10万円渡したと第1授受のことを話しました。」
大村裁判官「第1授受を思い出したきっかけは、記憶喚起の資料やメールを見てからですか。」
N「その頃は見ていません。メールや資料を見る前に第1授受のことを思い出していました。」
大村裁判官「第1授受の最初の供述ではTさんはいないことになっていますが、この時の記憶はどうだったのですか。」
N「その時はTさんは本当にいなかったと思っていました。」
大村裁判官「警察官の方からTさんの同席について聞いてきましたか。」
N「私が詐欺で逮捕されてからずっと日夜取り調べで、もうその頃は、不適切な言い方かもしれませんが、ゆるい雑談の感じでガンガン聞いてくる感じではなかったです。雑談の延長で、Tさんがいたかは分かりませんとだけ答えました。」
大村裁判官「Tさん同席を思い出したのは。」
N「4月上旬です。記憶喚起の資料や報道などで思い出しました。」
大村裁判官「記憶喚起の資料とは。」
N「クレジットカードの明細です。私の署名を見てTさんがいたことが確定しました。」
大村裁判官「明細を見る前にはTさんのことは思い出していなかったのですか。」
N「明細を見る前から、Tさんはいたかもしれないとは思っていました。明細を見たのは4月中旬です。」
大村裁判官「警察の方から見せられたのですか。」
N「私の方から警部にお願いして持ってきてもらいました。」
大村裁判官「ガストで渡した封筒に入れた資料の内容は覚えていますか。」
N「今は覚えています。中学校の図面と赤ペンの書き込みのある資料です。」
大村裁判官「第1授受の取り調べの時は。」
N「その時は頭にありませんでした。数日前の契約書と同じものだと思っていました。警部から見せられて資料があったことを思い出しました。」
大村裁判官「第2授受について、原資はどうやって調達しましたか。」
N「イオ信用組合から不正融資を受けた中から20万円を支出しました。」
大村裁判官「なぜ20万円という金額にしたのですか。」
N「以前10万円渡したので、その倍の20万円を渡そうかなと思いました。」
大村裁判官「捜査段階の供述ではH・Yから50万円借りて原資にあてたと言ったのは間違いですか。」
N「間違いとは思っていません。不正融資の中から出しましたが、借りたおかげで資金繰りが楽になり、20万円出すことができました。」
大村裁判官「借りた50万円はどうしましたか。」
N「電話の翌26日に受け取りに行き、某社の口座の支払いに充てました。」
大村裁判官「藤井さんと初対面の場所は取り調べ当初はどう答えていましたか。」
N「3月22日JR名古屋高島屋の華川が初対面と思っていました。この時、藤井さんが千円出した記憶がありましたので。」
大村裁判官「それ以前に会ったという記憶は。」
N「記憶喚起の中で3月頭に木曽路錦店でもTさんと3人で会っていたことを思い出しました。日時はクレジットカードのレシートで思い出しました。」
大村裁判官「藤井さんの一審判決の結果は知っていますか。」
N「無罪になったということは知っています。」
大村裁判官「Nさんの証言はどう判断されたか知っていますか。」
N「知っています。そうだったんだと。特に大した気持ちはありませんでした。」
大村裁判官「一審判決後、捜査機関、警察や検察の人間と会いましたか。」
N「会いました。判決後、3月19日に私が刑務所に移送される前に拘置所で2,3回。」
大村裁判官「誰と会ったのですか。」
N「関口検事と事務官です。こういう結果になったと報告がありました。でも、新聞で結果は知っていました。」
大村裁判官「何のために来たと思いますか。」
N「特に何のためとかは言ってませんでした。関口検事は悔しいと話していました。」
大村裁判官「あなたはどう思ったのですか。」
N「私は悔しくありませんでした。控訴して欲しくないと伝えました。」
大村裁判官「刑務所に移送後も捜査機関の人間が会いに来ましたか。」
N「移送後はありませんでした。」
検察官尋問
公判立会検察官は3名。名前が分からなかったので、裁判官に近い一番奥の席に座っていた背広を脱いでワイシャツを着ていた検事を白シャツ検事、一番手前の傍聴席に近い方の検事を背広検事と便宜上呼びます。真ん中の席が関口検事。
白シャツ検事「藤井さんへの第2授受を自白した時だけ泣いたのですか。」
N「違います。詳細は覚えていませんが、賄賂の自白をする前に、子供の話をして泣いたことがあります。」
白シャツ検事「他の議員についての話は。」
N「藤井さんの第2授受を話した2日後、他の議員についても話しました。お金でなく接待をしたことを話しました。」
白シャツ検事「贈賄の供述は第2授受が最初でしたか。」
N「そうです。」
白シャツ検事「先ほど、不適切な表現かも知れないが、ゆるい取り調べだったという発言があったが、この時はいい加減な気持ちで供述したということか。」
N「そうではないです。私は記憶の通り話しました。」
白シャツ検事「H・YさんとTさんは知り合いですか。」
N「Tさんを私に紹介したのがH・Yさんです。」
白シャツ検事「H・Yさん経由でTさんに現金授受のことが知られてしまうと思いませんでしたか。」
N「そんなにTさんとH・Yさんは会っていないので、そんなに心配はしていませんでした。」
白シャツ検事「判決後に、控訴しないで欲しいと言ったのは、自分がいい加減な証言をしたからですか。」
N「そうではなく、藤井さん以外にも他の議員のこととか、横領とかあったので、もう証人に呼ばれたり、打ち合わせもしたくないなと思っていました。自分の刑が確定しているので、自分の刑を粛々と全うしたいと思っていました。」
弁護人尋問
郷原弁護人「先ほどの尋問で、正式に召喚状が来る前にこの証人尋問の予定を家族に教えてもらったと言いましたが、家族とは誰ですか。」
N「身内です。」
郷原弁護人「どういう関係ですか。奥さんとか兄弟とか。」
N「家族は家族です。どういう位置にいるとかは答えたくありません。」
白シャツ検事「異議。関連性がありません。」
郷原弁護人「どうして知ったのかを確かめるために質問しています。先ほど新聞でという発言もありました。」
郷原弁護人「本当に証人尋問があるか疑問に思いませんでしたか。」
N「疑問はありました。正式に召喚状が来ないと確定しないと。」
郷原弁護人「自分から確かめようとしましたか。」
N「私の一審の弁護士に確かめてもらおうと頼みました。資料は刑務所より法律事務所の方に送ってもらった方がいいと思いました。」
郷原弁護人「なぜ資料を見ようと思ったのですか。」
N「1年間刑務所に服役していたので、資料を見て思いだそうと。」
郷原弁護人「弁護士から注意を受けましたか。」
N「弁護士から、読まなくていい、今の記憶だけでいいと言われました。言われてからはそんなに読んでません。」
郷原弁護人「最初から調書の内容と関係なく、自分の記憶だけで証言したらいいと思いませんでしたか。」
N「そう思いませんでした。」
郷原弁護人「送ってもらった資料を最後に読んだ日はいつですか。」
N「関係あるんですか。最後に見たのは先週木曜日です。」
郷原弁護人「弁護士に会ってからの期間はどれくらいありましたか。」
N「2週間くらいです。」
郷原弁護人「逮捕後の取り調べを最初はガンガンやってたというのは、何の内容についてですか。」
N「詐欺事件の方です。否認はしていません。あれはどうだこうだと細かく詰めていた。」
郷原弁護人「あとは、ゆるい取り調べだったというのは、何の内容でしたか。」
N「贈賄についてです。藤井さんだけでなく、他の議員のことも雑談レベルで話していました。」
郷原弁護人「また証人尋問に呼ばれることに不安はありましたか。」
N「不安はありませんでした。」
郷原弁護人「第1授受の10万円は他の議員に渡した額と同じということで思い出したのですか。」
N「はい。」
郷原弁護人「メールの文面を見て思い出したのではないですか。」
N「メールを見たからではありません。」
郷原弁護人「あなたが捜査段階で検察官に語った内容では、メールを見てから話し始めたとあるが。」
N「思い出せません。」
郷原弁護人「今のは一審の証言と同じ内容だが。」
N「そうだったかは覚えていないが、私の記憶通りです。」
郷原弁護人「第1授受はガストの駐車場で車から降りた場面から思い出したのではなかったか。」
N「はっきりと覚えていません。」
郷原弁護人「人数が2人から3人と判明した経緯は覚えているか。」
N「覚えています。」
関口検事「異議。いつの調書か。」
N「最初、自分、Tさん、藤井さんの3人か、Tさん、藤井さん、仲介者の3人だったか、よく分からなかった。クレジットの署名で自分もいたことが判明した。」
郷原弁護人「一審の証人尋問の打ち合わせはどれくらいやりましたか。」
N「毎日、朝から。どれくらいかは覚えていない。検事の質問に私が答える形でやりました。」
郷原弁護人「弁護人の反対尋問への想定問答は。」
N「そういうことは記憶にない。取り調べじゃないので、全部しゃべるのでなく、聞かれたことに答えればいいと。」
郷原弁護人「藤井さんの一審判決書のコピーをどうやって弁護士に送ってもらいましたか。」
N「私は弁護士に資料を送って欲しいと言っただけです。判決書とは言っていません。」
郷原弁護人「あくまで当事者でないNさんの弁護人には藤井さんの判決書は、郵送されて来ませんが、どうして入手できたのか。」
白シャツ検事「マスコミ用の判決要旨のことだと思われますが。」
村山裁判長「どれくらいの大きさや分量でしたか。」
N「A4で100ページくらいありました。」
郷原弁護人「1審判決後、関口検事と会ったのは2回か、3回のどちらか。」
N「2回か3回かは分かりませんが、1回ではありませんでした。」
郷原弁護人「2回目はどんな話をしたのか。」
N「受刑生活を粛々と送っていきたいと話しました。」
郷原弁護人「一審と違う証言をしたら、偽証罪に問われるという不安はなかったか。」
背広検事「異議。質問でなく意見です。」
村山裁判長「最後まで聞きましょう。」
N「そこまで考えていません。全く何もかも覚えていないと困ると思っていました。弁護士にも偽証罪になるかどうかは相談していません。」
神谷明文弁護人「Tさんには現金授受のことを知られたくないと思っていたのですよね。」
N「はい。」
神谷弁護人「あなたが藤井さんと2人で会う機会は作れましたか。」
N「できました。」
神谷弁護人「2人で会おうと言ったことはありましたか。」
N「2人で会おうというようなことは言いませんでした。」
補充尋問
大村裁判官「中学校に浄水プラントを設置した現場でH・Tと交わした会話は当初から覚えていたのですか。」
N「贈賄自白をする前には、H・Tのことは記憶にもなかった。贈賄で逮捕後、H・Tと現場に行ったことないかと聞かれて、会話を思い出しました。」
大村裁判官「水源の売り上げはいくらでしたか。」
N「売り上げという売り上げはありませんでした。不正融資が収入でした。」
大村裁判官「レンタル契約の実績はありましたか。」
N「ありません。」
白シャツ検事「契約とは別にどこかに設置したことはありましたか。」
N「レンタル契約はなかったが、介護施設に設置したことはあります。」
郷原弁護人「介護施設に設置した時の売り上げは。」
N「ゼロでした。」
郷原弁護人「H・Tさんがあなたに、「お前、よくこんなのつけれたね。」と言ったのは、市長と仲が良いからという意味で言ったのか。」
N「ちょっとよく分かりません。自治体に設置できるのはすごいということではないか。」
郷原弁護人「H・Tさんは市から発注があったと思い込んでいたのか、実際は実証実験で売り上げにはならないことを知っていたのか。」
N「実証実験だということは話していません。ただ、看板には社会実験と書いていました。」
郷原弁護人「浄水プラントの設置現場に金融関係者はいましたか。」
N「イオ信用組合と十六銀行の担当者です。」
郷原弁護人「他の自治体職員はいましたか。」
N「幸田町と名古屋市の職員が来ていました。美濃加茂市には視察が来ることを事前報告していました。」
郷原弁護人「金融関係者が来た目的は。」
N「銀行が水源の事業を見せてくれと浄水プラントの設置現場を見に来ました。」
郷原弁護人「中学校のプラント設置以外でも融資の案件を取り付けられましたか。」
村山裁判長「その先は詐欺に入ってくるので。」
郷原弁護人「では、撤回します。」
白シャツ検事「契約までいかなくても、営業は何件くらいかけましたか。」
N「案内だけなら300件くらいです。」
白シャツ検事「契約寸前までいった件数はありましたか。」
N「数件ありました。」
村山裁判長「水源の売り上げがゼロだった期間はどれくらいですか。
N「5年間です。」
村山裁判長「立ち上げ時からずっとということですか。」
N「そうです。」
傍聴雑感
一審の時とほぼ同じ証言でした。家族の誰から証人尋問の予定を教えてもらったのかを聞かれた時以外は、興奮せず、淡々と証言していました。
たぶん、もう証拠調べはないので、3点だけ、気になった点の考察を書いておこうと思います。
東京地検に異動していた関口真美検事
一審の公判で主任検事だった関口真美検事が2016年4月1日付で東京地検に異動していました。(2016.4.1(1)付 法務省人事 Westlawjapan)
一審の公判担当検事4名は全員名古屋地検から異動していました。一見しただけでは「左遷」かどうかは分かりません。
武井聡士検事 名古屋地検(2014.4.1)→長崎地検(2016.4.1(1)付 法務省人事 Westlawjapan)
早川充検事 名古屋地検(2013.4.1)→東京法務局訟務部付(2015.4.1(4)付 法務省人事 Westlawjapan)
伊藤孝検事 名古屋地検(2013.4.1)→熊本地検(2015.4.1(3)付 法務省人事 Westlawjapan)
・除斥、忌避、回避の制度
前審に関与した裁判官、当事者の一方として関与した裁判官は、除斥、忌避の対象となります。公平を期しがたい者をあらかじめ除外して、三審制の趣旨を損なわないようにするためです(刑事訴訟法20条、21条)。除斥、忌避事由に該当すると断定までできなくても、疑わしい場合は、裁判官の方で、司法に対する一般の国民の信頼、いわゆる「公平らしさ」を守るために自主的に回避するのが望ましいとされます(刑事訴訟規則13条)。
もっとも、検察官にはそのような制度はないので、一審の主任担当検事だった関口検事が控訴審の公判に立ち会っていても、ただちに違法とはいえないでしょうが、関口検事の立ち会いを許可した検察幹部は、検察官には裁判官ほどの「公平らしさ」は必要ないと判断したということでしょう。
・弁護人の抗議の意味
証人が圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあるときは、相手から見えないよう衝立の遮蔽やビデオリンク方式で尋問を行うことができます(刑事訴訟法157条の3・157条の4。民事訴訟法203条の3・204条2号)。暴力団事件や性犯罪事件などを想定して作られた制度ですが、実際は暴力団と無関係な傷害事件などでも活用されています。
一審では、関口検事が証人Nに対して連日6,7時間打ち合わせを行い、弁護人に供述調書そのままと評される証言を行いました。傍聴席からも見えていましたが、関口検事は証人尋問開始直前にも、証人Nに対して耳打ちをしていました。
このような、入試直前の有名進学塾でもそこまで長時間の受験生の指導はしないくらいの、連日連夜の打ち合わせをした当人の面前で、同じ人物が同じ質問をすればテストに「合格」するのは不思議ではないでしょう。そうすると、元々の自己の記憶でなく、他人に刷り込まれた記憶を語ることになり、証人尋問の意義が失われてしまいます。証人の心理的圧迫を回避するため、上記規定を類推適用して遮蔽措置や当該検事を退席させることは、特に不当な措置ともいえないでしょう。刑罰を拡張する方向での類推解釈は禁止されますが、被告人に有利な類推解釈は禁止されていません。
ましてや、今回の証人尋問は裁判所が職権で証人を呼び出し、証人の「生の記憶」を確かめるため、検察官との事前の打ち合わせを禁止しています。その趣旨を潜脱するかのように、同じ検事を控訴審の公判に参加させる神経に唖然としました。アメリカなら法廷侮辱罪ものでしょう。
・関口検事が来た目的
関口真美検事がいくら一審の主任検事だったとはいえ、名古屋高裁の控訴審にも出席するのは妙です。というか、一審で敗訴した担当検事が恥の上塗りのように控訴審でも出てくるなど聞いたことがありません。まして今年4月1日に東京地検に異動したはずが、名古屋高検が担当する公判に出席するには、どんな辞令をもらったら可能になるのか謎です。いくら思い入れが強くても勝手に東京を離れて職場放棄はできないし、受け入れる名古屋高検の検事長の許可も必要で、結局、両者の上級庁である最高検察庁の大野恒太郎検事総長の了承の下、関口検事が派遣されてきたことになります。
この公判に関口検事が来た目的を考えると、証人が「変なこと」を言い出さないか監視しに来たと見るのが妥当でしょう。予想外の証人尋問の決定で、途中から担当することになった名古屋高検所属の検事より、長時間の打ち合わせで証人Nの「弱点」も知り尽くしている関口検事を立ち会いさせた方が効果的と判断したのでしょう。一審と同じ質問をしなくても、異議でヒントを出すことで反対尋問を潰すこともできます。
一審判決後、関口検事がNのもとを訪れ、「悔しい」と言ったというのは、たぶんウソでしょう。いくら証人テストで長時間過ごしたとはいえ、一方は刑が確定して収監予定の元被告人、もう一方は司法試験に合格した現役の検事です。身内でもないただの一般人に本音を吐露するのはプライドが許さないでしょう。上級庁からの組織的命令ではなく、関口検事の個人的思い入れが動機とカモフラージュするための言い訳だと思います。
では、関口検事が2,3回Nのもとを訪れた目的は何かというと、自分の刑が確定したからといって、安易に週刊誌にセンテンススプリングしないよう釘を刺しに来たのだと思います。余罪の追及や家族や関係者へガサ入れの警告、偽証罪の警告もあったかもしれません。でなければ、もう判決が確定した被告人にわざわざ会いに来ません。
判決書のコピーを入手した経路
証人尋問の予定を「家族から教えられた」とNが言ったのは完全に嘘だと思います。
高裁が職権で最重要証人を尋問へ~美濃加茂市長の事件で異例の展開
証人尋問の情報は、江川紹子のヤフーニュース記事が初出で2月24日配信。アメリカの刑務所ではネットも通じるらしいですが、日本の刑事施設では自費で購入した新聞、雑誌か、テレビだけです。他のネットニュースや新聞、テレビは報道してなかったと思います。一時ヤフーのトップで多くの目に触れたと思いますが、関心がある人でないとクリックして最後まで読まないと思います。もしそれだけ関心のある家族なら、裁判を見に来ているだろうし、情状証人にも出ているはずです。
藤井さんの一審無罪の判決書は公刊されていないと思いましたが、実は裁判所のデータベースにひっそり上がっていたようです。
http://kanz.jp/hanrei/detail/85026/
↑のサイトは、無料で見れますが、検索性に乏しく、存在を知ってる人はあまりいないと思います。PDFで97ページありますが、匿名化してあるため、検索サイトにほとんどひっかかりません。法律に関心がある人でも探すのは楽ではないので、一般人が見つけるのはまず無理でしょう。
ちなみに、PDFの55ページまでは当事者の主張の要約で、その下からが裁判所が無罪と判断した理由です。
仕事や研究では、有料のTKCのLEX/DBインターネットを利用している人がほとんどだと思いますが、こちらは印刷の設定でページ数が変わります。
名古屋高検の白シャツ検事は「マスコミ用の判決要旨では」とフォローしようとして、逆に墓穴を掘ってしまいましたが、各当事者間で認識に齟齬があるのかもしれません。少なくとも判決書の原本のコピーか、匿名化したPDFの印刷のどちらかの可能性があります。
自分の知る限り、マスコミ用の判決要旨というのは、裁判所から記者クラブ用に配布するもので、A4でせいぜい2,3枚程度です。あくまで裁判所が「便宜供与」として任意に配るものなので、判決要旨を作らないこともありますし、マスコミに要求する法的権利はありません。中には、判決宣告の前にフライングで判決要旨を配った例もあるようです。一審無罪判決の宣告時はどの記者も真剣にメモを取って、急いで編集部に報告していたようなので、少なくとも事前に判決要旨を配ったりはしてなかったようです。
もし原本なら、当事者の弁護団か、検察官しか入手できません。詐欺の追加告発について、名古屋地検での協議の状況をNの弁護人に教えていたという前例があるなら、判決書のコピーを渡すくらいはずっと簡単なことだと思います。
一審でNが再尋問される前の2014年11月11日、Nは保釈され、自身の判決が出る2015年1月16日までの約2か月間だけ、社会に復帰します。実刑必至の被告人をこのタイミングで保釈させるのは「逃走援助」と言われてもおかしくないくらいあり得ないことです。4億円でなく、400億円の詐欺なら確実に逃げられていたでしょう。これまで逃亡して没取された保釈金の最高額は韓国に逃げたイトマン事件の6億円です。Nはこの2か月の間に、4年間の財産管理を手配していたのだと思います。
とりあえず、家庭用プリンターでA4普通紙を97枚プリントアウトしようとしたら、インクカートリッジの交換を要求されることは間違いないでしょう。
うそ泣きを見抜くコツ
少し前に自称イクメン議員の謝罪会見について、日大芸術学部パフォーマンス学の佐藤綾子教授が興味深いコメントをしていました。宮崎議員の去就はどうでもいいですが、コメントの内容は日常生活でも応用できそうだと思いました。残念ながら元記事のスポーツニッポンの記事はリンク切れしています。
会見ラストに眉間にしわを寄せて涙目になったのも気になった。「ギュッと目を閉じたのですが、その時に水滴が出ていない。 人間は感情が先にあふれて動作となるのですが彼は逆。作為の可能性が高いと感じました」
宮崎議員会見 誠意ほど遠く おじぎ14回「オーバー」涙目「作為の可能性」
1審の証人尋問初日にNが泣きながら自白のきっかけを話した場面がありましたが、話し出す前にうつむいて1分間くらい沈黙していた時間があったと思います。もっとも、傍聴席からは背中しか見えないし、うつむいていたので正確な表情は分かりません。
アメリカの裁判所は法廷での証言中もカメラで記録するようなので、しゃべっている時の表情も事後的な検証が可能です。
「ああ、なんてこった」裁判所で被告人が号泣 その理由は?(動画)
Nが家族のことを話すと泣き出したというのは、自白に迫真性を持たせるための演技の気がします。言う割には話しぶりが適当で、こう言っておけば世間の一般人は納得するし、それ以上追及してこないだろうという計算の元、話しながらもっともらしい理由を探していたのだと思います。
24時間テレビとか家族の絆大好き人間にはお涙頂戴のストーリーになるのかもしれませんが、「親戚は金を無心するもの」くらいにしか思っていない筆者のような薄情な人間は特に何とも思いません。実際に取り調べ中に泣いたのかもしれませんが、「妻も逮捕するぞ」とか「子供が学校でいじめられてもいいのか」と安否を憂慮する者への脅迫や侮辱を受けて泣いたのかもしれません。全部可視化された記録がないので、本当のことは分かりません。